デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進の鍵 

24 10月 2019

デジタル・トランスフォーメーション(DX)によるビジネスモデルの変革がマーケットで勝ち残るための鍵になると言われて久しく、日本企業においても変革に向けて各種取組を実行されているものと推察されるが、その実態はどうなっているのだろうか。

日本企業のDXの実態

日本企業のデジタル・トランスフォーメーションの取り組みはどの程度進んでいるのだろうか?

2019年に公表された調査結果によると、およそ8割の日本企業が、欧米企業と比較してデジタル化の対応が遅れていると評価している。あくまで自己評価ベースであるため主観的な見方ではあるものの、概ね一般的に言われていることとの整合は取れているものと考えられる。

 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)/株式会社野村総合研究所「デジタル化の取り組みに関する調査」(2019年4月)
 

デジタル技術を活用し変革を実現した企業としては、GAFA(Google / Apple / Facebook / Amazon)が代表的なものと考えられる。これらの会社はIT企業であるため、デジタル技術を活用するというのはある意味、当たり前のことだと思われるが、例えばAmazonについては、書籍の取扱を中心としたインターネット書店として立ち上げ、ユーザーの操作性を追求したUIや購買データを活用したレコメンデーション機能、カスタマーレビューなどの機能が圧倒的な支持を獲得し、爆発的にシェアを拡大したといったように既存(当時)のビジネスモデルをIT・デジタル技術を活用することで大きく変化させていったといえる。これはあくまで代表的な例ではあるが、これら企業と比較した際に、日本企業のDX対応が遅れているという自己認識は概ね間違いではないと思われる。

DXが進まない背景

日本においてDXが進展していない理由としては、社内に適任の担当者(デジタル人材)が不在である、DXに対する予算がつかない、自社ビジネス・組織運営におけるDX投資のメリット・効果が明確化されない、DX必要性が理解されない(危機感が無い)ということが背景として考えられるが、それらの状況が起こる本質的な理由とは何であろうか?

人事的な側面から考えた場合、企業全体としてのデジタルに関するリテラシーの低さが根源的な原因と考えられる。

現象面では、例えば、デジタル投資の案件が上申されてきたとしても、それを承認する立場の上級管理職がDXへの理解不足により、適切なジャッジができないということが考えられる(この結果として、DX予算がつかないという事象につながる)。

従来IT投資によるリターンは主にコスト削減につながるかどうかが判断基準であったが、究極的にはビジネスモデルの変革を企図するDX投資については、コスト削減(効率化)だけではなく、この投資によりビジネスがどう変革され、これにより自社にどのようなプラス要素がもたらされるかを見極められるかという点に尽きると考えられる。しかし、どうしても過去慣習に引きずられてコスト削減効果に目が行ってしまうのは、デジタル技術により自社ビジネスの未来がどう変化していくかの見通しがたてられないという、デジタル・リテラシーの低さが根本原因であると思われる。

また、別の調査**によると、日本企業は、主要先進国と比較し、デジタル・テクノロジーのスキルが極めて低い評価(素人・中程度で60%)となっている。片や欧米主要国では、約70%程度が高い評価(エキスパート・熟練)となっていること、シンガポール・オーストラリアなどAPAC諸国と比較しても、低い評価となっている。これについても自己評価ベースであるため、控えめな日本人の国民性について留意しておく必要があるものの、日本企業が今後デジタル・トランスフォーメーションを進展させ、競争力を高めていくうえで解決していくべき課題であるように思われる。

** ガートナー「業務用途のデジタル・テクノロジのスキルに関する自己評価について」(2018年1月)
 

なお、上記の背景として、日本においては、IT人材がITベンダー企業に多く所属するという構造的な特徴がある点も考慮しておく必要がある。

※ 企業に所属するIT人材の比率
米国 ユーザー企業IT部門:約65%、IT企業:約35%
日本 ユーザー企業IT部門:約28%、IT企業:約72%
(出典)IPA「IT人材白書2017」

打ち手として取り組むべきこと

このような状況下で、私たちが取り組むべきことは何であろうか?

経済産業省から2019年に「DX推進ガイドライン」が策定されており、これに沿って自社の状況をチェックしていくことは有用と考えられる。この中でも、現状を考えた場合に絶対に必要となるのは、企業全体でのデジタル・リテラシーの底上げと考えられる。

一般的にDXを推進していくためには、全社横断でのデジタル専任組織を組成する、外部から人材を採用することなどが考えられる。ただ、組織を構成するのは人材であり、その組織の必要性やアウトプットを評価し、推進を後押ししていくのも人材である。恐らく、デジタルネイティブと呼ばれる世代が企業における意思決定の中枢になる段階では自然解消される問題だと推測されるが、ずいぶんと先の長いことになるので、まずは我々世代のデジタルに関わる基礎的な理解度を上げていく活動が必要ではないか。

例えば、最近はオンライントレーニングで、最新テクノロジーやデータ(アナリティクス)に関する基礎コースを受講できるサービスもあるため、そのような仕組みを活用することで、基礎力の底上げをしていくことが有効であると考える。

しかし、この仕組み自体がテクノロジーを活用しているため、一朝一夕にはいかないものの、小さなことからでも取り組みを始めて、少しずつ底上げをはかっていくことこそが、日本においてデジタル・トランスフォーメーションを推進させるための鍵になるであろう。

著者
磯部 浩也

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