HRPMIにおけるシナジー創出(後編) 

05 11月 2021

シナジー創出のプロセス

HRにおけるシナジー創出とは、HR組織の最適化・HR業務の効率化に伴った人員削減、および従業員ベネフィット・年金制度等の統合によるスケールメリット獲得に伴ったオペレーションコスト削減の2点である。前編では、この過程におけるHR組織・レポートラインの統合および人事制度・オペレーションの統合を行う必要性をお伝えした。ここまでの過程で、組織やオペレーションを効率化することで、一定のコスト効果は出ることも見込まれるが、実際のシナジー効果を創出するのは、この後の過程で実施する人員最適化とベンダーコストの削減である。

人員最適化のアプローチ

HR組織・レポートラインおよび人事制度の統合を検討したところで、新しいHR組織に必要なポジション、人員数が明確になってくるはずである。ここで、新しい組織に必要なメンバーを残し、組織をスリム化することが必要となる。ポイントは、既存のメンバーをベースに考えるのではなく、役割ベースで考えることだ。この検討の過程は1. 前提条件設定、2. 選定基準設計、3. 評価及び選定である(図1)。

 

図1. 対象者選定のプロセス

1. 前提条件設定については、これまで検討してきた新組織の人員構成に基づくこととなる。一方、ボトムアップで人員数を策定する場合、どうしても見積もりが甘くなりがちだ。配置転換や人員削減には多大なコミュニケーションや時間を要し、金銭的なコストも掛かることから、避けたくなるのも仕方がない面がある。そのため、全社としてのシナジー目標が定められているのであれば、HRに関しても一定の目標を課すことで、変革を担当するメンバーに目標を達成するストレスが掛かり、削減に厳しく取り掛かることとなるだろう。


2. 選定基準設計について、既存ポジションの重要性、選考対象者の置き換えの難しさの二軸で選定基準を検討するのが一案である(図2)。

 

図2. 選定基準の設計

図の通り、二軸の基準は、y軸を進めば既存ポジションの重要度は増し、x軸を進めば選考対象者の置き換えは難しくなる(ハイパフォーマーである)と置き、6つの象限に分け、対象者をプロットしていくこととなる。ポジションの重要性や置き換えの難しさについては、それぞれに基準を設け、対象者をスコアリングした上でプロットしていくと良いだろう。


3. 続いて実際の評価および選定を行うこととなるが、スコアリングが客観的に実施できれば、対象者を異動あるいは残念ながら解雇の対象者となった場合、評価の結果としての利用を検討できる。この際、選定結果のログをとり、基準や選考プロセスのレビューを法務アドバイザーから受けることも重要だ。もちろん、新しい組織には既存のポジションでは埋まらないものも多数出てくる可能性がある。その場合、上記の選定プロセスで異動の決まったメンバーを当てはめることもできれば、既存のメンバーでは能力や経験的に合わない場合は、外部から登用することとなる。繰り返しにはなるが、能力や経験値的に既存のメンバーを充てられる場合は問題ないが、基準は役割ベースで新人事を考えることが肝要である。

最適化の基準設計や対象者選定と並行し、異動や人員整理の際のコミュニケーションプロセスやセベランスの計算も行うことが必要である。これらは、各国ごとに労働法やプラクティス、あるいは、労働組合の有無と組合との取り決めによって異なるため、それぞれについて法務アドバイザー等を介して事前に確認し、コミュニケーションプランを設計しておくことが求められる。実施事項が従業員感情から見て非常にセンシティブであることから、もし、想定通りに進まなかった場合のバックアッププランも持っておくと良いだろう。

ベンダーコストの削減

 人員最適化に比べてベンダーコストの削減は比較的デジタルに進められる項目の一つであるといえる。ベンダーコストの削減は、オペレーションの削減と重複する部分があるが、HRISや給与計算ベンダーの統一といった分かりやすいものから、保険ブローカー、DC年金の記録関連運営管理機関といった主要なベネフィット関係、あるいはEAP等グローバルでサービスを提供しているベンダーがいれば、それらを統合していくことが考えられる。従業員ベネフィットに関しては、等級・報酬・評価等の人事制度とは異なり、各国の社会保険や労働法と強く関連しており、グローバルからトップダウンで制度を統合していくことが難しい制度である。ベネフィットの内容を選択する主体、市場プラクティスに対するターゲット水準等グローバルでガイドラインを作成することは可能であるが、どの保険を利用するか等、具体的な制度内容はボトムアップで各国ごとに大きく異なることになる。

ベンダー統合の目的は、統合を行うことでスケールメリットを生み、コストを下げることだが、ベネフィットの種類によってはあまり削減とならないものや従業員のコストに影響はあっても、会社負担額に影響のないものある。雇用者側のコスト効果の出やすいものとしては、保険ブローカーをグローバルで統一し、国際プーリングを活用することである。なお、保険ブローカー統一によるコスト削減効果は、厳密には保険料等が現状から削減できるわけではなく、昨今世界的な潮流となっている保険料の上昇を抑えるという範囲である。

まとめ

 最後に、2回にわたり述べてきたHRの文脈でのPMIにおけるシナジー創出の要点をまとめ、本稿の結びとしたい。

  • HRにおけるシナジー創出とは、HR組織最適化による人員削減および人事制度統合・オペレーションの標準化によるオペレーションコストの削減である
  • この過程で、各国で起きていることを可視化した上で、グローバルHRガバナンスを構築しておくと、今後も継続してコントロール可能な状態となる
  • 可視化とコントロールを可能にするには、最終報告先をグローバルCHROとし、レポートラインを一本化し、グローバルの施策を打ちやすくする、また、人事オペレーションのコストを制限し、高い透明度を保つには、制度・オペレーションの共通化が肝要である
  • HR組織最適化および人事制度統合・オペレーションの標準化が完了すれば、重複した役割や機能の削減を行うことで、シナジーを実現する
  • この際、各国における労働法や労働慣行は異なるため、各国の法制度等を十分留意した上でプロセス設計や対象選定を実行することが重要である
  • 一連のプロセスは、多数のステークホルダーが関与し、多大な工数がかかるため、強力なリーダーシップの下、トップダウンで迅速に行うことが求められる
著者
柴山 典央

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