シニア社員の更なる活躍機会の創出に向けて(継続雇用・定年延長) 

12 9月 2019


本年5月に70歳までの就労機会拡大に向けた施政方針の総理発言があり (首相官邸 第27回未来投資会議)、今後、遠くない将来、継続雇用の対象が現行の65歳から70歳まで延長されることが展望されている。65歳の雇用延長に対しても苦慮されている企業が多い中、更なる延長となれば、その課題は増々大きくなるであろう。

これまで多くの企業が雇用延長の方法として、現行制度に定年再雇用制度や減額型の定年延長(シニア社員は他社員の8掛け等)の仕組みをアドオンして設定してきた。しかし、今後、更に雇用延長が進むと60歳以上社員は規模も大きくなるため、単なる法令対応やシニア社員の生活保障を目的とした最低限の制度調整では、コスト増の一因にしかならず事業競争力の低下に繋がりかねない恐れがある。

そのような背景を踏まえると、シニア社員も他社員と同様に活躍し続けられる組織を目指す必要があり、そのためには欧米企業のように人材マネジメントの方針に年齢の概念を持たない“エイジ・フリー”組織への転換が必要と言える。ここでは、現行のシニア社員を取り巻く人事課題を整理しつつ、 “エイジ・フリー”組織へ転換する上での施策について検討していきたい。

 

組織への貢献度に対して割高な報酬水準:
通常、シニア社員は若年層より幅広く深い専門性・経験があるため、労働力として頼もしい存在のはずだが、その報酬の高さから組織の負担と見られているケースも多い。賃金構造基本統計調査(厚生労働省)からも明らかなとおり、日系企業の報酬は職務よりも年齢との相関関係が強い傾向にあり、50~60歳の報酬は他年齢層よりも高い。

高年齢層の中にはいわゆる“あがり”意識となり、更に専門性の幅を広げようとするよりも、習得済みの知見の活用に限定して変化の大きい事業環境に対応できなくなってしまっている人材が一定割合を占めていることも多い。それにも関わらず報酬は高くなっているため、更に雇用延長を進めることとなれば収益圧迫に直結する可能性が高い。

現状は判例・慣習として高年齢を理由に報酬を下げることが許容されている部分もあるが、今後、年齢によらず適切に報酬を増減させようとするならば、その方法としては組織貢献に応じた報酬制度(役割等級制度)の適用が有効だろう。役職や専門性の活用度に応じて報酬が増減することで、“あがり”意識の醸成を回避して継続的な成長の促進につながると考えられる。

 

役職者の固定化による組織の新陳代謝の低下:
雇用延長が進むと部長・課長などの重要な役職者が長く固定化され、若手の登用機会の減少、ひいては組織の成長鈍化につながるという懸念もしばしば聞かれる。新卒一括採用の下で横並び・世代意識が強くなっている中では、指揮命令系統と世代間の逆転が好まれず、また短期的な成果の観点から若年層の登用が回避されやすいため、適切に役職者の入替りが進まなくなってしまうケースは多く見受けられる。

その対策として役職定年制は効果的な面も大きい。ただ一方で、年齢を起因にキャリアを狭めるアプローチでもあるため、“あがり”意識を醸成したり、無理な人材の入替えに伴う事業リスクにつながる可能性もある。そういう点では、決して容易ではないものの、各役職の候補者管理・育成計画といった中長期での要員計画の策定・推進が効果的と言える。

中期的にどのような知見・専門性を持つ人材をその役職とするべきかを組織の重要テーマとして捉え、その役職の候補者が絶えないよう中期的な育成計画・要員計画を推進することで、年齢によらない柔軟な人員配置につなげられよう。

 

高年齢であることが成長促進の阻害につながる組織風土・要素:
“エイジ・フリー”組織の実現に向けては、報酬制度や中期的な人材育成計画の推進に加えて、組織風土やソフト面で見直すべき点も多い。その中では、次のような取組みは状況改善につながると考えられる。

  • 年齢の上下 (先輩・後輩)を意識した関係構築から、年齢によらず互いにリスペクトを示すようなコミュニケーションを推奨する
  • 個人の専門性の転換・拡張のハードルが高くなりすぎないよう人事異動・学習機会を提供する
  • 自身の専門性の市場価値と報酬の紐づきに意識が向くよう中途採用の活用を促進する
  • 年齢に関わらずキャリア・専門性の見直しを図ることや活躍機会を見出すことが可能となるような環境の整備等

高年齢であることが成長促進を阻害する要因となるような組織風土・要素に関して細部まで組織・人材を観察し見直しを図ることは非常に重要と言える。

 

多くの企業が事業のグローバル化を前提に多様な人材のマネジメントに取組んでおり、その中でも日系企業においては年齢面でも適切に多様性を受け入れていくことが、社会環境上、求められている。

画一的な人材マネジメントのままでは厳しい事業環境の中で勝ち続けていくことが困難になっている中で、従業員一人ひとりが組織や自身の将来像・キャリアに希望をもって、生産性高く専門性を向上させながら働きつづけるためにはどうすればよいか、目指すべき組織・人材の姿を明確にして高い優先度を持って取組む時期が既に訪れている。

著者
米澤 元彦

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