公的年金財政検証からのメッセージ 

11 3月 2020

昨年8月、5年に一度実施される公的年金の財政検証結果が公表された。公表を受けて、将来の給付水準が2割下がるけど大丈夫か?ということがメディアを中心に喧伝されていたが、給付水準の見通しは前回の2014年の財政検証と比べて悪化したのであろうか?

前回と比較する前に公的年金制度の仕組みを説明する。現行の年金制度は、2004年に大きく形を変えている。それまでは、5年に一度、給付に必要な保険料を算出する年金制度だった。これを現役世代の保険料負担が過大とならないように2004年の法改正で労使合算の保険料を固定して、加えて、給付額を調整する仕組みであるマクロ経済スライドを導入する事で収支のバランスが合うまで給付水準が下がるものとなった。財政検証ではこのマクロ経済スライドで、いつまで、どの給付水準まで調整されるのかが検証されている。

財政検証ではいくつかのケースで結果が示されている。
表は経済成長と労働市場への参加が進むケースとして、2014年財政検証のケースEと2019年財政検証のケースⅢを比較したものである。調整までの年数は長くなっているものの、将来の給付水準(所得代替率)にはほとんど差異はない。足元の給付水準も大きくは変わらないので、いずれも将来の給付水準が2割下がるという結果は概ね同じであったことがわかる。

(表)
  2014年財政検証:
ケースE
2019年財政検証:
ケースⅢ
いつまで調整されるか? 基礎年金 2043年 2047年
報酬比例 2020年 2025年
どの給付水準まで調整されるか? 将来水準(所得代替率) 62.7%(2014年)
⇒50.6%(2043年)
< 約19%低下 >
61.7%(2019年)
⇒50.8%(2047年)
< 約18%低下 >

公的年金の将来水準が2割低下する問題については、2014年の財政検証結果の公表時から公になっており、5年前からセカンドライフの資金に関して問題意識を高めている人、企業は少なくない。

60歳以降の所得としては、各企業が65歳への定年延長を徐々に進めており、また、政府は70歳まで働ける環境を整備する方向で検討しており決してネガティブな話だけではない。しかし、60歳以降に親の介護等で働けなくなるような不測のケースもあり、また、平均余命、健康寿命の延伸により支出が増加傾向となることも考慮すると、若いうちからセカンドライフの資金の準備をした方がよさそうなのは確かである。

公的年金の将来水準の低下を受けて、従業員のセカンドライフ資金に問題意識を持った企業はこの5年間で何を進めてきたのだろうか?退職金を増額できれば良いが、退職金の増額は市場水準を下回る退職金を市場水準並みに引き上げるようなケースに限られる。そこで、コスト負担を抑制しつつ従業員のセカンドライフ資金の問題を解決する仕組みとして活用されているのが確定拠出年金(DC)である。

図のDC加入者数の推移を見ると、DC加入者数は一旦2012年頃に増加傾向が落ち着いたが2014年頃から増加傾向が強まっていることが分かる。
増えている理由は、従業員拠出に税制上のメリットがあるからである。
単純な例を考えてみたい。
仮に、30歳からDC制度を利用して従業員本人が月1万円を拠出した場合、65歳まで420万円を元本として積み上げられる。この時、所得税・住民税控除(合算して20%として想定)の効果として概算で80万円程度も得ることができるのである。
DC未実施の企業はDCの新規導入、DC実施済みの企業は見直しにより従業員も拠出できる設計とし、労使合意の上で、公的年金水準低下に備えて自助努力を促進する仕組みを作っているのである。DCは、一旦拠出すると原則60歳まで引き出せない制度であることに加えて、拠出時、運用時の非課税措置が老後の資産形成にあたって最適な器と考えられているのである。
DCを従業員に運用リスク、運用負担を負わせる、会社都合で導入する制度と考える時代はもう過去の話なのかもしれない。

著者
須藤 健次郎

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