男女の賃金差異の公表義務化 貴社は本当の男女の賃金差異を説明できますか? 

03 2月 2023

2022年7月8日の女性活躍推進法に関する制度改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として、「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となります。公表期限は直近の会計年度の実績をその終了後3カ月以内であることに伴い、準備に取り組まれている企業も多いことでしょう。雇用区分別の男女の賃金差異の公表にとどまらず、企業としてこれらの差異に対する理解や解消に向けたアクションを開示していくためには、もう一歩踏み込んだ分析が必要です。

本コラムでは、男女間賃金差異に対するマーサーの考え方とこれに沿った報酬サーベイ分析結果をご紹介します。貴社における男女の賃金差異の情報公開、そして差異の解消に向けた施策の検討材料として活用いただければ幸いです。

 

男女の賃金差異の考え方

 

Pay Equityの考え方


男女の賃金差異であるRaw Pay Gapは、グレード、勤続年数などの「説明できる差異」と、「合理的に説明できない差異」から構成される。それぞれの「差異」によって対応策は異なる

「男女の賃金差異(総額)」は、職階・勤続年数や職種、労働時間などの差によって「説明できる賃金差異」と、これらの条件をそろえたとしても残る「説明できない賃金差異」に分けて考えることができます。

なお、公表義務化対象は雇用区分別の男女の賃金差異(総額)です。

 

「説明できない賃金差異」こそが本当の男女差異

一般的に、賃金は職階や勤続年数、労働時間に比例して高くなります。職種に関しては高度な専門技術を要する職種、成果報酬度合いが高い職種ではそれ以外の職種よりも賃金が高くなる傾向にあります。

日本では、平均的に女性は男性より勤続年数・労働時間が短く、さらには女性よりも男性の方が高度な専門職種に従事する場合が多く、早く管理職者に昇格します。これらが要因となって平均的に女性は男性よりも賃金が低いわけですが、すべての賃金差異を属性の男女差で説明できるわけではないのです。

男女で平均的な勤続年数や職階などの属性に差があることによって説明できる差異を解消したとしても、上記のように属性の男女差では説明できない差異、つまりたとえ男女で属性が同じ(例:同じスキルで同規模の組織で働く同期の営業職)であったとしても生じる賃金差異が残ります。この差こそが、より厳密に男女の賃金差異を表しているといえるでしょう。

 

本当の男女差異はいくら?(マーサーの総報酬サーベイデータ分析に基づく)

 

日本企業男女間賃金差異


2022TRSを基にした分析データ

Source:2022TRSデータより 従業員1000人以上、日系企業、Career Level : Professional, Management、性別区分有効組織を抜粋しマーサージャパンで分析

では、日系企業において「説明できる差異」と「説明できない差異」はどの程度あるのでしょうか?

マーサーが実施した2022総報酬サーベイ(Total Remuneration Survey、以下TRS)のデータのうち、従業員1000人以上の日系企業/一般従業員~管理職(キャリアレベル:Professional, Management)/性別区分の有効データを抽出し、賃金差異の算出とその要因分析を行いました。

*分析は、サーベイ参加企業の中から一部のデータを抜粋して実施しています。分析結果はあくまでサーベイ集計値であり日本企業の代表値というわけではありません。
また、本分析は報酬サーベイで取得可能な項目を基に分析を行っており、人事評価の男女差は説明できない差異に含まれていることから、実際の“説明できない差異”は本分析結果と異なる可能性があります。

 

男女の賃金差異要因4項目

  1. 年齢
  2. 勤続年数
  3. 職階(一般社員や課長級など)
  4. 職種(営業、製造、人事、経理など)

 

分析からわかった「説明できる差異」と「説明できない差異」

  1. 男女の賃金(基本給+手当+賞与)の平均値を比較してみると、差は190万円24%
  2. 職階差によって生まれる差異額は要因の中で最も大きい110万円14%で、昇進・昇格の男女差が生む職階差が男女の賃金差異の主要因
  3. 「説明できる差異」を差し引いて残る、属性差では説明できない本当の男女の賃金差異は45万円6%であり、男性と女性の属性条件を同じにそろえたとしても、女性の賃金は男性より45万円6%低いことを意味する 

 

賃金差異縮小のためには?説明できない差異への対応を優先

男女の賃金差異を解消するための施策例を以下に示します。説明できる賃金差異への対応としての人事制度改正や企業文化・風土変革については、賃金差異だけでなく全社的な人材戦略や、DEI(Diversity, Equity and Inclusion)戦略を踏まえた施策の企画実行が望まれます。

一方で、説明できない賃金差異に対してはその意味合いからしても、個別にテーマとして切り出し、優先順位を上げて対応策を講じる必要があるといえるでしょう。グローバル企業では説明できない賃金差異の解消を目的とした一定の予算枠を確保したうえで、差異の大きな職種や職階から順に特別昇給を行うのが一般的です。

 

賃金差異タイプ 賃金差異の要因 対応方針
説明できない賃金差異  

賃金差異の解消を目的とした予算と特別昇給

  • 性別以外の要因で説明ができない賃金差異については、予算枠を確保したうえで、昇給措置を講じて賃金差異の解消を図るべきである。
説明できる賃金差異 職階

昇進・昇格における男女間格差の解消

  • 男女間で職階格差や社内資格格差が存在する背景には、日頃の業務の与え方の積み重ねや評価制度の内容・運用も影響している。女性が男性と同じように賃金の高い職階や社内資格に進むことのできるような体制作りが大切であり、同時に、ポジティブ・アクション等を通じて、女性の能力を積極的に活用する努力が必要である。
職種

採用・配置・評価における男女間格差の解消

  • 採用や配置の男女差は、長期的には評価や昇進・昇格の男女格差をもたらす。男女間で分け隔てのない配置や配置転換が重要であり、女性の配置が遅れている職務分野に女性の配置を推進するためにも、ポジティブ・アクションを積極的に導入すべきである。

同一労働同一賃金の推進

  • 同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す必要がある。

年齢/勤続年数

労働時間

ファミリー・フレンドリー企業への努力

  • 女性が育児・介護等家族的責任のために仕事の継続を断念することがないよう、育児・介護休業制度の整備・充実や、利用者を増やす努力、フレックスタイム制など柔軟な労働時間制度の導入等により、ファミリー・フレンドリーな企業を目指すべきである。

 

本分析は限定的なデータを用いたものですが、ご紹介した考え方や分析アプローチを参考に、男女の賃金差異解消に向けた取り組みや施策を検討なさってはいかがでしょうか。

 

参考文献:Hlavac, Marek (2018). oaxaca: Blinder-Oaxaca Decomposition in R. R package version 0.1.4.

使用したデータ:マーサーの報酬調査データ

分析方法:手法:Blinder-Oaxaca分解

著者
伊藤 実和子
小林 眞弘
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