高齢化が進む日本とシニア人材マネジメントの今後
07 11月 2024
2024年6月、内閣府が令和6年版「高齢社会白書」を公表した。本白書によると、総人口に占める65歳以上の人口割合(高齢化率)は、2023年に29.1%を記録した。同書では、日本の高齢化はさらに進行し、2040年には高齢化率34.8%、つまり3人に1人が65歳以上になると予測されている(図1)。この高齢化率は、世界の諸外国と比較しても最も高い水準にある*1。
こうした中、シニアを取り巻く社会動向は変化の真っただ中にある。例えば、高年齢者の就労確保に関する法改正や、生産人口の減少による労働力確保の必要性の高まり、さらには長寿化に伴う個人の就労観の変化など、枚挙にいとまがない。それらの変化に伴い、シニア人材*2マネジメントのあり方に対して各企業の関心が高まりつつある。このような背景を踏まえ、本コラムでは、シニア人材マネジメントの今後について考察し、シニア人材の活躍を促す取り組みを進めるためのポイントを探る。
図1. 日本の人口推移と将来予測
*2 シニア人材の定義として、ここでは概ね50歳以上の社員を想定している
シニア人材マネジメントの実態
現在のシニア人材マネジメントの実態を見ると、シニア人材を事業推進上の戦力として位置付け、他の世代と同様に積極活用している企業は依然として主流ではない、と筆者は考えている。例えば、政府は70歳までの就業確保措置を努力義務とする指針を示しているが、実際には多くの企業が60歳定年・65歳までの継続雇用に留まるとともに、60歳を超えると59歳以前に比べて異なる待遇を適用しているケースも見受けられる(図2)。さらに、近年は廃止傾向にあるものの、大手企業の中には一定の年齢に達すると役職に応じて一律にポストオフをする役職定年を導入しているところも少なくない*3 。
シニア人材に対しこのような消極的な対応が多い背景には、メンバーシップ型が根強い日本の雇用慣行が少なからず影響しているだろう。つまり、人材の流動性が低い中で、人件費のコントロールや組織の新陳代謝を担保する手段として、シニア人材マネジメントを位置付けている企業が多いと推察される。
図2. 定年制・継続雇用制度の状況と60歳以上における待遇の変化
しかしながら、前述の通りシニアを取り巻く動向の変化に伴い、各社はシニア人材マネジメントのあり方について自社のスタンスを再考する岐路に立っている。シニア人材マネジメントに画一的な解はないが、自社の事業戦略、およびそれに必要となる将来の人材の量と質を見据えたうえで、自社の方針がどうあるべきか明確にすることが必要だ。
特に、自社のワークフォースの高齢化やDEIの促進などの観点から、ビジネスの競争力維持・向上に向けてシニア人材の確保・活用ニーズが高まってきている場合には、シニア人材のリテインとエンパワーメントが重要なテーマとなりうる。そのような環境下で、シニア人材が活躍できる機会を限定して待遇を引き下げるという消極的対応は、定年を控えた/定年を迎えたシニア社員の組織への貢献意欲やエンゲージメントの低下という構造的な課題を招きやすい。シニア人材のモチベーションを保ちながら活躍を促していくためには、より人材を確保しやすい雇用の枠組み(定年年齢や継続雇用制度など)や、年齢に関わらず活躍できる処遇のあり方(職責や報酬水準など)を検討することが重要となる。
シニア人材の活躍促進に向けた4つの観点
- Career & Skills
キャリアを描くサポートと、年齢に関わらずチャレンジできる仕組みを整え、多様なキャリアを築ける環境を醸成する - Working Arrangements
シニア人材が持続的に働き続けられるよう、パーパスフルで柔軟な働き方の選択肢を提供する - Total Wellbeing
シニア人材が直面しやすい事象へ配慮・サポートを行い、仕事・生活両面のウェルビーイングを促進する - Inclusive Culture
マネージャーへのサポートや世代間の対話の促進により、年齢に対する偏見・バイアスを取り除く
2024年10月にマーサーがリリースした「役職定年・定年・継続雇用・シニア人材活用に関する調査」では、上記の観点に基づく各社の具体的な施策の実施状況と、シニア人材の活躍を引き出すために有効だと思われる施策について調査を行った。本調査によると、Total WellbeingやCareer & Skillsに関する施策の多くは、実施中または活躍を引き出すために有効であると多数の企業が回答している(図3)。
その一方、Inclusive Cultureに関連する施策の多くについては、実施していると回答した企業が相対的に少なく、かつ有効な施策として優先度高く捉えている企業も少なかった点はとても興味深い。グローバルでは、年齢に関するバイアスが未だ日常の生活に埋め込まれていることを問題視し、世代・年齢の多様性をDE&I領域の「ラストフロンティア(最後の未開拓領域)」として取り組みを進めている実態とは対象的だといえる。もちろん組織の状況に合わせ、インパクトの大きいもの・自社にとって関連性の高いものの優先度を上げて取り組むことも重要だが、シニア人材マネジメントにおいて日本でもそのような観点を持つことは一考に値する。