アジャイル組織における評価制度のあり方

03 3月 2025
- 小規模で自律的なメンバーで構成されたチーム
異なる専門スキルを持つメンバーが自主的に仕事を計画・遂行する - チームによる意思決定
ヒエラルキー的な上司からの指示ではなく、チーム内でインタラクティブに意思決定を行う - 迅速な意思決定と短い開発サイクル
スプリント(1週間~1ヵ月程度)単位で計画・成果を管理する
アジャイル組織の特徴と評価に求められる視点
アジャイル組織の運営は、プロジェクト単位での業務進行と組織の柔軟性が特色だといえる。チームは短期間で成果が求められるため、個人・チームの役割や機能も固定的ではなく、柔軟に変化する。こうした特徴を踏まえると、アジャイル組織では成果評価の基準も従来の業務型組織とは異なるものとなり得る。
例えば、従来の評価制度は「個人の業績」をベースにしたものである場合が多い。多くのヒエラルキー型の組織では、期初に上司-部下間で定めた業績目標の達成度を、期末に上司および本人が評価し、昇進や昇給を決定してきた。営業や製造など、個々の成果が比較的区分・測定しやすい組織では、このような仕組みは後出しじゃんけんや評価の甘辛を排除しやすく、公正性が高い仕組みだった。
しかし、メンバーが複数の異なるプロジェクトやチームに参画し、役割も絶えず変化するアジャイル組織では、業務内容や目標の流動性が高いため、上述のような評価の仕組みでは立ち行かなくなる。では、どのような点を考慮した仕組みとするべきなのか。以下、2点に注目したい。
ポイント1:他者との協働を評価する評価項目の設定
アジャイル組織では、クロスファンクショナルなチームでの協力が重要であり、メンバーは時に自身の役割を超え、チームで成果を上げることが求められる。このような環境では、個々のメンバーの成果だけでなく、チーム全体の協力体制やプロセスに対する貢献が重視される。例えば、評価項目として個人の成果や、個人で成果を出すために求められる能力(知識や思考力など)に加えて、チームで結果を生み出す上で求められるコンピテンシー(行動や姿勢)等を含めることが有効だと考えられる。業務プロセス改善への積極性、他者の巻き込み・動機付けといった定性的な評価軸の導入も一案だろう。
また、アジャイル組織のマネージャーは、上記のようなチームとして重要視するコンピテンシーについて、日々の活動の中で明確にメンバーへ共有しておくことが肝要だ。場合によっては、こうしたコンピテンシーをチームへ参加する条件とするのも選択肢となる。
ポイント2:高頻度のフィードバックと多面的評価の活用
短期的な成果を求められるアジャイル組織では、相対的に短いスパンでの個々の能力伸長が重視される傾向にあり、そのためフィードバックは非常に重視される要素となる。従来の年期評価制度を漫然と運用するのではなく、頻度の高いフィードバックを前提とした体制・サイクルの新たな設計が求められる。高頻度(最低月1回以上)の1on1ミーティングの義務化等は、そうした取り組みの一例である。運用負荷は軽くないが、タイムリーに個々の業務の状況や課題を把握し、解決策や業務計画の修正について議論できることは、メンバー自身の成長加速とチームでの成果向上の双方に資する重要なアクティビティだと考える。
また、メンバーに対して、自身や同僚の評価に積極的に関与させることも有効だろう。自身のパフォーマンスについて(上司の関与から離れて)振り返るための自己評価や、自ら評価者となって同僚を評価する相互評価の仕組みを取り入れることは、自己理解やチームメンバー間の相互理解を促し、評価の透明性・納得性を高める一助となるだろう。また異なる観点では、このような相互評価によるピア・プレッシャー(パフォーマンスや姿勢を相互に確認・評価しあう仕組みがもたらすポジティブな緊張感)は、個々の成長をより加速させる側面もあるといえる。いずれにせよ、チーム・個人の双方に好影響を与えるツールとして活用できるだろう。
ここまで、アジャイル組織を題材に評価制度設計のポイントについて解説してきたが、こうしたポイントは通常の組織においても近年重視されつつある。それぞれの事業や組織体制、業務フローや人材の特性に合わせて、最適な手法・プロセスを検討されたい。