令和7年度税制改正大綱から考える退職金制度の設計ポイント

14 3月 2025
令和7年度税制改正大綱の概要(企業型DC・iDeCo関連)
令和7年度税制改正大綱の概要(企業年金・iDeCo関連)
1. 拠出限度額引き上げ(企業型DC、iDeCo)
(1) 企業型DC
(2) iDeCo
2. マッチング拠出の加入者掛金の拠出要件廃止(企業型DC)
改正案では、マッチング拠出における「加入者の掛金額が事業主の掛金を超えないこととする制約」が廃止される。現在の制約は、若年層等の事業主掛金が低い加入者は加入者掛金を多く拠出できない等の問題があり、また制約のないiDeCoと比較して制度を使いづらく複雑なものとしている。この制約が廃止されれば、従業員は事業主掛金の金額に関わらず、DC拠出限度額から企業年金の掛金相当額を控除した空き枠内で上限まで加入者掛金を拠出できるようになり、従業員にとって使いやすく・分かりやすい制度となる。
上記の変更について更に理解を深めるため、改正前後の拠出限度額を表した図が以下である。
参考:制度改正の全体図
今後の退職金制度の設計におけるポイント
1. 企業型DCの導入・割合引上げの可能性
企業型DCの拠出限度額が月額6.2万円まで引き上げられることにより、企業型DCの新規導入・既存の退職金制度における企業型DC割合の引き上げを検討しやすくなる。特に退職金の給付水準が高く、月額5.5万円でDCが頭打ちになっている従業員が多い企業では、移行割合の引き上げを検討する好機となる。
また、この拠出限度額引上げ分を任意の加入者掛金拠出枠の拡大に充てられる。今回の改正案には、拠出限度額と併せてマッチング拠出の加入者掛金の拠出要件廃止も盛り込まれているため、加入者掛金を事業主掛金が上回る設計とすることもできる。例えば現在事業主掛金3万円で改正後もこれを維持する場合、加入者掛金は上限2.5万円から3.2万円へと増額される。
一方で、現在DB制度および企業型DC制度を併用している企業のうち、経過措置を適用して2024年12月のDC法改正以降も企業型DCの拠出限度額を月額2.75万円のまま維持している企業については、本改正後の経過措置の取扱いが未定であることに留意が必要である。改正案通り拠出限度額が月額6.2万円に引き上げられた場合、企業型DCの拠出限度額は現行通り月額2.75万円のままか、あるいは自動的に引き上げられるかどうかは今後の動きを注視したい。
2. iDeCo対比でのマッチング拠出の優位性増加(従業員目線)
iDeCoの月額拠出限度額の引き上げ、企業型DCにおけるマッチング拠出の加入者掛金の拠出要件廃止により、企業型DCを実施している場合のiDeCoとマッチング拠出の拠出限度額は同額となる。従業員目線で改正後の両制度を比較する場合、企業型DCとiDeCoの運用商品の違いを考慮しないとすると、口座の管理手数料を企業が負担するマッチング拠出を利用した方が、多くの従業員にとってiDeCoを利用するよりも優位な選択となる。また、そもそもiDeCoは投資への意識が高い従業員が多く利用する傾向にあり、多くの従業員にとっては勤務先を通じて申込できるマッチング拠出の方が手軽に利用できありがたい制度と言えるだろう。
一方で、企業の人事担当者目線では、2024年12月よりiDeCo加入時の事業主証明の提出や年1回の現況確認が廃止となった経緯もあり、iDeCoと比較してマッチング拠出の相対的な管理負担(加入者申込受付等)は大きい。しかしながら、老後における金銭面での不安や新NISA制度の開始等を背景に個人の資産形成ニーズが高まる中、企業として従業員の資産形成を支援する観点から、マッチング拠出の導入や利用を推進する意義は大きいと言える。