海外の福利厚生制度と近年のトレンド

02 4月 2025
日本国内で「健康経営」や「ウェルビーイング」という言葉を聞くようになってどれほど経つだろうか。経済産業省がホワイト500やブライト500といった健康経営優良法人の認定を始めたのは2016年度だが、それ以前より取り組んでいた企業もより一層従業員の健康増進に向けた施策を企画・実施しているのではないかと思慮する。現にマーサーが昨年実施した「福利厚生の今後の方向性に関するスナップショットサーベイ」によると、福利厚生制度の見直しを検討している企業の内、13%の企業が福利厚生費を減らしたいと言っているのに対し、33%の企業が増加を検討している。残りの大多数(54%)の企業は現状の福利厚生費を把握していないため一概には言えないが、人的資本への投資ということもあり、福利厚生制度の関心は高まっているように思える。
グローバル化の進む日本企業に目を向けると、日本国内の制度の見直しの検討が加速する一方で、海外拠点の現地社員向け福利厚生制度に関しては、本社主導で見直しを行っている日本企業はまだ少ない。その理由は海外の福利厚生制度をどのように捉えるべきか認識出来ていないためではないかと筆者は考える。
そこで本コラムではそもそもの福利厚生制度の位置づけと、海外における制度の捉え方および近年のトレンドを解説する。
福利厚生制度の位置づけ
まず福利厚生制度は、総報酬の一角である。総報酬は給与や賞与といった金銭報酬と、その他は非金銭報酬に分かれており、日本企業では現金報酬的な性格を持つものも少なくないが、本来の福利厚生制度は非金銭報酬に含まれる。その他の非金銭報酬として代表的な制度は社内表彰や休暇等が挙げられるが、金銭報酬が労働の金銭対価であることに対して、非金銭報酬はモチベーション向上や使途を限定した対価だと言える。
そのような福利厚生制度は、法定福利と法定外福利に分けられており、法定福利は法令で提供が義務付けられたもので、代表的なのは健康保険や厚生年金保険、法定の有給休暇等である。そして法定外福利は、社宅や通勤手当、企業年金や慶弔関連の手当等といった、従業員やその家族の生活の安定や福祉を目的として企業が任意で実施する制度である。
図1. 総報酬の一角として機能する福利厚生
海外での福利厚生制度の捉え方
前述の金銭報酬・非金銭報酬という考え方と法定福利・法定外福利という分け方は海外であっても同様である。海外と日本で認識が大きく違う点としては、海外では医療保障が最大の福利厚生制度と認識されている点だ。日本では健康保険が公的医療保障として国民・居住者に提供されており、医療費が公定価格かつどの医療機関にかかっても自己負担割合は同じである。一方で海外の公的医療保障に制限があり、保険適用の医療機関が限定される、現役世代には提供されない、手術の待ち時間が長くなる等、不便なだけではなく、健康状態によっては深刻な状況に陥ってしまう可能性がある。
重要な労働力である従業員がこのような状況では企業として安定したパフォーマンスを引き出すことが難しいため、海外では医療保障を福利厚生として従業員とその家族に企業が提供しており、従業員もまた自身と家族のセーフティーネットとしての医療保障を重要視している。医療保険を提供・加入させるか、または医療機関と提携するなど、国によってプラクティスは異なるが、企業が公的医療保障の穴埋めを行っているとも言い変えられる。一方で企業にとってはランニングコストが大きく、アメリカでは医療保険の保険料が平均年収の約1/4となっているため、適切な医療保障を提供しつつ、コストを最適化することが海外企業にとっては重要な課題だ。
海外の福利厚生制度のトレンド
医療保障はあくまでも有事の際に機能するが、近年海外では「いかに健康で居続けるか」が重視されており、ウェルビーイングと呼ばれている。ウェルビーイングというとメンタルヘルスが思い浮かばれるが、海外ではフィジカル、ファイナンシャル、ソーシャル、またキャリアウェルビーイングといった考えも近年は出ている。企業としては安定した労働力を得るためにも施策を打ち出しており、グローバルでウェルビーイング戦略を展開している欧米多国籍企業も少なくはない。
現実的に健康状態は良い悪いの二極化では整理できず、良くも悪くもなく仕事はこなせる層がいれば、同様の状態で生産性が低い、または仕事が出来ないといった場合もあるため、このような黄色信号が出ている従業員をどの様に把握し組織的な対応策を準備しているかが問われる。