エンゲージメントサーベイをアクションにつなげる3つのポイント 

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15 4月 2025

エンゲージメントサーベイの実施から活用へ

近年、人的資本経営の考え方が広まり、エンゲージメントの向上が企業価値に与える影響がますます注目されている。多くの企業がエンゲージメントサーベイを導入し、さらにはその対象を日本に留めず、グローバルを含むグループ全体に展開している企業も少なくない。日本企業の多くは、サーベイの導入に注力するフェーズから対象範囲を広げ、結果の活用に重点を置くフェーズに移行しつつあると感じる。本コラムでは、サーベイ結果の活用、特にグループ全体でアクションを徹底するポイントを紹介する。

ポイント1. アクションにつなげるためのサーベイ結果の適切な読み解き

サーベイ結果を適切に理解するには、国・地域や業界別の参照ベンチマーク(以下、ノーム)との比較が不可欠だ。マーサーは65ヵ国、840万人以上に対するエンゲージメントサーベイの実績と、それらを基にしたノームデータを有する。

ノームは雇用慣行、人材マネジメント特性、カルチャーの傾向による影響を強く受けるため、特に国・地域別ノームを参照する意味合いは大きい。例えば、日本はグローバルノームに比べてエンゲージメントスコアが低い傾向があり、「どちらでもない」と回答する割合が大きい。一方で、エンゲージメントスコアがグローバルノームより高い傾向のあるインドや中国等の国もある(図を参照)。グローバルノームとの一律的な比較で課題を抽出するではなく、全般的な傾向はグローバルノームで把握しながら、国・地域別ノームとの比較から結果の解釈や課題仮説を立ててアクションにつなげることが有効だ。

図. 従業員エンゲージメントの国・地域別肯定的・中立的・否定的回答率(マーサー ノームデータ2023)

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ノームの他に、自社の過去のサーベイ結果との比較も重要な観点である。エンゲージメントの向上は一朝一夕で達成できるものではない。また、サーベイの結果を踏まえたアクションの効果は、必ずしも1年で得られない。事業環境の変化等、アクション以外の要素も含め、過去に比べどの項目がどう変化したのか、変化の要因は何かといった問いを軸に、結果の分析やアクションの検証を繰り返し行う必要がある。

ポイント2. エンゲージメント向上の責任主体の明確化

エンゲージメントサーベイ活用の先進企業では、エンゲージメント向上の責任は経営や人事に限らず、組織を実際に預かる事業側のマネージャーにあることを明確にしている。この前提の下、エンゲージメントや関連指標を経営層やマネージャー層の評価KPIに設定したり、役割責任の中で定義したりしている。

また、こうした企業では、サーベイを管轄する人事機能(注:グローバルでのサーベイの取り組みが進んでいる企業では、グローバル人事のCoE機能が担当する場合が多い)は、事業側をガイドする役目として経営層、マネージャーやグループ内拠点の巻き込みを効果的に行い、各自がアクションの実行に主体的に責任を負うよう働きかけている。具体的には、サーベイの実施、各拠点でのエンゲージメント向上のためのアクションの策定、アクションのフォローアップや経営への定期報告に責任を有することが一般的だ。

なお、グループ全体でのサーベイ実施にあたり、本社が舵を取り、グループ各拠点への強いガバナンスを働かせなければデータ収集や結果を受けたアクションのフォローアップが難しくなる。例えば、ある日系グローバル企業ではグループ全体にサーベイを展開したものの、一部の海外拠点からは回答が集まりにくく、拠点により回答率にバラつきが生じた。本社のサーベイ管轄部門は各拠点人事機能に対する連携や的確な指示を出す役割を担う。また、拠点長との合意を通じて、エンゲージメント向上に向けた取り組みが拠点人事の主要な役割責任であると認識させ、拠点人事の貢献を動機付ける環境設定が求められる。サーベイ管轄部門は、こうしたグローバルの関係者への直接・間接的な働きかけを通じてグループ一体でエンゲージメントを向上させる動きに昇華させる必要がある。

ポイント3. 経営による旗振りの徹底

事業や人事の役割の明確化に加え、経営による旗振りの徹底がサーベイ活用における肝となる。サーベイの取り組みが先行している企業の多くでは、人事や外部専門家がサーベイ結果の読み解きを経営に報告するだけでなく、結果の受け止めやアクションの優先順位等について経営自らが議論・アクションへの落とし込みを牽引している。

また、グループ全体でサーベイを実施する場合、本社の経営層での議論に留まらず、各拠点にて事業リーダーが結果の読み解きやアクションの議論を行う。この際、本社からはなぜサーベイを行うのか、どのような改善が求められるかを拠点のリーダーに対して的確に伝えることが求められる。各拠点での議論の結果は本社に報告され、本社がその推進状況をモニタリングする。事業計画やその他の重要な経営指標だけでなく、従業員エンゲージメントについても報告のサイクルに組み込み、マネジメントするためにはこうした経営層の不断の働きかけが不可欠である。

そして、議論の結果は最終的にタウンホールミーティング等の全従業員に開かれた場で経営から語られる。トップからの直接の発信により、従業員はサーベイを通じて自分たちの声が届いていると実感できる。さらに、会社が結果をどう受け止めてどう変わろうとしているのかを、経営の覚悟と併せて受け止めることができる。こうして会社と従業員の組織的な対話サイクルが機能する。

エンゲージメントサーベイをパフォーマンスの向上につなげるために

エンゲージメントサーベイは、従業員の状態を把握し、エンゲージメントの向上を通じてパフォーマンスを向上させるための重要な手段である。一方で、エンゲージメントは一朝一夕に変わるものではない。サーベイの「やりっぱなし」を防ぎ、また組織に「サーベイ疲れ」を起こさないためにも、経営層を含む社内の各階層やグループ会社を巻き込んだ議論の場を作り、各組織で着実に必要なアクションの遂行につなげることが求められる。エンゲージメントサーベイは、組織のマネジメント活動のサイクルに織り込むべき取り組みだといえるだろう。
著者
儀賀 真由子