第1回懸賞論文 授賞式
<各受賞作とその講評>
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優秀作
株式会社プロテリアル 常務執行役員CHRO
中島 豊 氏
「日本企業の競争力を回復させる処方箋 ~製造業A社における間接部門の業務量調査に基づく分析と提言~」
講評
日本企業の「情報同化型」の業務処理体制が、生産性の低下を起こしているとの仮説に基づき、製造業の具体多岐な仕事の割り振りをみて、その打開を提言する論文。
日本の競争力の低下をマクロ経済指標を参照しながら確かめ、その要因を競争優位性を失った日本企業の「情報同化型」のコーディネーションに求め、そこからの脱却を訴える論理展開はしっかりしており、高く評価したい。また、そのことを大手素材メーカーA社の間接部門の業務量調査を用いて検証している点も評価できる。一方、競争力回復に関する過去の研究や他国での事例との比較が示されていないなどの課題も見られる。また、大手素材メーカーA社以外に業種を跨る複数の日本企業の間接部門の業務量調査を用いた検証もあると、論文の価値をさらに高めたのではないだろうか。
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
望月 賢一 氏
「社会関係資本の視点から考える人的資本経営‐「学習するコミュニティ」が社会関係資本として機能する‐」
講評
より効果的な人的資本経営を行うために、会社として社会関係資本の形成に投資することの必要性を説いた論文。
会社と個人の関係が「選び選ばれる」関係になることを踏まえ、人的資本経営を社員視点で捉え直し、学習しながら実践する組織横断的な社内コミュニティ、つまり、社会関係資本の果たす役割の重要性を説いたことは新しい視点の提供であり、評価したい。特に、その社内コミュニティの事例を集め、社員の主体性と組織横断的な動きの必要性を説き、また、その機能を強化するための方策を模索している点は、高く評価したい。一方、社会関係資本以外の資本が人的資本経営にもたらす影響への考察がないなどの課題も見られる。また、社内コミュニティを発展させる方策として、広報と人事との連携による社内発信だけではなく、複数の人事施策との関係などを盛り込む必要もあったのではないだろうか。
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奨励賞
滋賀⼤学大学院 データサイエンス研究科
井下 敬翔 氏
「パーソナル AI と組織 AI による ⼈事管理の⾰新と最適化」
講評
最新のテクノロジーを用いた革新的な人事管理を構想した論文。
AI技術を用いた革新的な人事管理の提案であり、論理展開もしっかりしている。特に、多様性の尊重、「個」を活かす組織の実現がこれからの人事課題であるとすると、パーソナルな情報の把握は不可欠であり、パーソナルAIによる個人最適化と全体最適化AIによるその統合という着想は、示唆に富んでいる。ただし、テクノロジーの最新動向を踏まえた革新的な提案であるものの、構想の域を出ていない。具体的な企業活用事例を参照し課題を分析することで、より考察の深さが生まれたのではないだろうか。
慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任助教
木下 翔太郎 氏
「デジタルテクノロジーを活用した労働者のメンタルヘルス対策の可能性と課題」
講評
メンタルヘルス対策におけるデジタルテクノロジーの活用可能性を模索した論文。
メンタルヘルスが世界的に課題視される中で、AIをはじめとするデジタルテクノロジーをメンタルヘルス対策に活用するという新たな可能性を模索する姿勢は、高く評価したい。また、その研究の最新動向や導入に際しての倫理的・法的・社会的課題についてもよく整理されており、読みやすい。今後は、執筆に際して4ヵ国の一般市民4,000人を対象に実施したAIによるメンタルヘルスのモニタリングに対する意識調査の統計的な解析など、考察の深堀を進め、実装に向けた具体的な提言を行っていくことを期待したい。
EY Japan Regional Talent Development Leader
島岡 なつ美 氏
「経営トップへ転職する -ネットワークによる CxO の組織定着支援の研究-」
講評
CxOへの転職に与える人的ネットワークの効果を検証した論文。
CxOの外部採用と企業内での定着は今後の企業経営にとって重要な課題であり、そこでの人的ネットワークが果たす役割に注目する視点も独自性があり、論題設定と視点の独自性は高く評価したい。また、丁寧なインタビューを通して仮説を検証しており、この点も評価したい。一方、インタビュー数の不足は否めず、対象が偏っている可能性があり、一般化に課題を残す。また、人的ネットワークとCxOとしての期待役割の遂行についてさらなる考察があると、よりインパクトが生まれたのではないだろうか。
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