ポートフォリオにおける気候変動リスクにどう備えるか 

『ニュー・プロップ』(2024年11月号 掲載)

2022年4月の東京証券取引所の市場再編に伴い、プライム市場上場企業は、コーポレートガバナンスコードにより、気候変動に関連するリスクと収益機会についてTCFDまたは同等の枠組みに基づく開示が求められるようになった。既にTCFDへの賛同を表明し、また気候変動開示を行っている地域金融機関も多い。

気候変動問題は、対策の必要性が叫ばれて久しく、各種の対策がとられているものの、その成果は十分ではない。産業革命以前280ppm程度で安定化していた大気中の二酸化炭素濃度は現在も上昇を続けており、今年420ppmを超えた。気候変動の影響は既に各地で社会経済に影響を与えているが、今後さらに大きな影響が及ぼすことが予想されている。

気候変動はポートフォリオのリターンにどのような影響を与える可能性があるのだろうか。マーサーでは2011年からこのテーマについてリサーチを重ねてきたが、昨年末、Ortec Financeと共同で、最新の知見に基づく新たな分析結果を公表した。

本分析では、「秩序ある移行シナリオ」(2℃シナリオ)、「急速な移行シナリオ」(1.5℃シナリオ)、「移行の失敗シナリオ」(4℃シナリオ)の三つをコアシナリオとしつつ、これらを合成したベースラインシナリオを作成※、モデルポートフォリオのリターンへの影響を、短期(5年)、中期(20年)長期(40年)で分析した。

 

図. 異なる気候シナリオと気候情報に基づくベースラインの下でのグローバル株式ポートフォリオの40年予測(実質ベース)

content-image-2025-new-prop-winter2024 出所:マーサー

分析からは様々な示唆が得られたが、主な結論のひとつは「移行を成功させることは、長期投資家にとって必須である」ということだ。分析では「移行の失敗シナリオ」では、2062年までにGDPはベースラインより約25%減少、グローバル株式ポートフォリオの予想価値はベースラインより40%減少するという結果が得られた。GDPより株式への影響が大きくなるのは、将来の経済的影響を織り込んでいるためだ。ほぼ全ての長期投資家にとって「移行の失敗」、すなわち気候変動対策の失敗は、長期的なポートフォリオの価値低減につながることが予想される。このため、機関投資家には、受託者責任として気候変動リスクに対応するスチュワードシップ活動を行い、またポートフォリオにおける脱炭素化の方針を策定することが求められる。本分析では、セクターへの影響やプライシングショックの問題など、他にも投資家にとって重要な示唆が得られた。ご関心を持って下さった方は、ぜひご一読いただければ幸いである。

上述したように気候変動問題への対応は、必要な水準に達しておらず、今後あらゆる分野でさらなる対応が求められる。ポートフォリオにおける気候変動リスクについても、対応が進むことを期待したい。

※ベースラインシナリオは、既に一定程度各気候シナリオが市場価格に織り込まれていることを想定し、三つのシナリオから合成して作成している。

 

マーサー「気候危機下の投資 気候シナリオ分析の役割」(日本語版)も併せてご覧ください。

著者
物江 陽子

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