DCとDB どっちのパフォーマンスが良いのか? 

04 3月 2025

DCレター No.4

企業型確定拠出年金(以下、DC)の加入者数は、2024年3月末時点で約830万人、確定給付企業年金(以下、DB)加入者数の約903万人にほぼ匹敵する水準となっています。また、DCの資産額は同時点で約23兆円とDBの約70兆円と比較するとまだ差はあるものの、10年前の2014年3月末(約8兆円)対比で3倍近くに及びます。近年DCのマーケットは拡大しており、企業年金制度において他の制度を補完する位置付けからメジャーな制度になりつつあると言えるでしょう。

DC加入者の運用利回り

DCの特徴は、加入者が自ら資産運用を行うことにあります。よって、当該制度の運営の成否には、加入者の資産運用の成果が大きく影響します。では、DC加入者の運用成果はどのような状況にあるのでしょうか。

残念ながら、DCの加入者全体の平均運用利回りは、公表されているデータからは入手できません。また、運用利回りを評価するためには、特定期間の利回りを計測する必要があります。例えばDCの場合、制度導入時期が異なる加入者同士の運用利回りを比べても、どちらの運用がうまくいったのかは評価できません。よってここでは、DC加入者全体の年度ごとの運用利回りを推計し、同じ期間におけるDBの運用利回りと比較検証を試みました。

その推計結果は、図1に示す通りです。2023年度一年間のDCの加入者全体の平均利回りは、18.05%と、DBの平均利回り9.07%のほぼ倍近い値となっています。しかもDCの加入者の中には元本確保型だけで運用している人も含まれているので、それ以外の人の利回りは平均して20%を超えていると想定され、かなりの人が大きく資産を増やす結果となりました。

また、これを含めた2014~2023年度の過去10年間の結果*を見ると、DC加入者の利回りは、2019年度まではDBの運用利回りを下回ることが多かったのですが、2020年度以降はDBの運用利回りを上回っています。具体的には、過去10年通算ではDBの年率4.00%に対して、DCは同4.69%とDBの運用利回りを凌駕する結果となりました。

* 双方ともに運用報酬控除前のリターン
図1. DCとDBの年度ごとの運用利回り

(年度)

 

    DC

DB

差異

 

2014

 

8.36%

10.08%

-1.72%

 

2015

 

-2.47%

-0.50%

-1.97%

 

2016

 

3.53%

3.39%

0.14%

 

2017

 

4.10% 

4.44%

-0.34%

 

2018

 

0.51%

1.60%

-1.09%

 

2019

 

-3.08%

-1.26%

-1.82%

 

2020

 

14.47%

12.26%

2.21%

 

2021

 

4.07%

2.88%

1.19%

 

2022

 

1.38% 

-0.99%

2.37%

 

2023

 

18.05%

9.07%

8.98%

通算(年率)①

 4.69%

4.00%

0.70%

標準偏差(年率)②

6.55%

4.60% 

1.96%

効率性(①/②)

0.72

0.87

-0.15
出所: 企業年金連合会『企業年金実態調査結果』
DCの運用利回りは、運営管理機関連絡協議会『確定拠出年金統計資料』を元にマーサー推計

DC加入者の利回りが改善した理由

ではなぜ特に2020年度以降、DCの運用利回りがDBを上回るようになったのでしょうか。その理由の最も大きなものの一つが、DC加入者が株式への配分比率を大幅に増やしたから、と推測できます。特に株式の中でも外国株式への配分の増加が顕著であり、2019年度末(2020年3月末)時点では、外国株式への平均配分比率は11.83%であったものが、2023年度末(2024年3月末)には26.49%と大きく増加しています。コロナ禍以降、DBの外国株式への配分比率は大きくは増えておらず(2019年度末13.40%→2023年度末14.93%)、特に外国株式がこの間好調に推移したことによって、DCの運用利回りがDBの運用利回りを上回るようになりました(図2参照)。

ここで、なぜDCで急激に(国内株式への配分ではなく)外国株式への配分が増えたのでしょうか。この点について、明確な答えはありませんが、それまで外国株式の運用利回りが国内株式に比べて良好であったことに加えて、コロナ禍後、インフレ・円安が進み、日本円以外の外貨資産に投資をしないと資産保全が図られない、という意識の浸透が背景にあるように思います。いずれにせよ、DC加入者全体の金融リテラシーのレベルは、昨今の新NISAの広範な普及もあり、着実に上がってきています。

図2. DCとDBの平均株式配分比率

DCとDB どっちのパフォーマンスが良いのか?
出所: 企業年金連合会『企業年金実態調査結果』、DCの運用利回りは、運営管理機関連絡協議会『確定拠出年金統計資料』
(注)DCの株式比率には、バランス型に配分されている部分も含む(推計値)

DCの課題を超えて

DCの運用利回りが、DBを上回っているのは最近まで株式市場(特に外国株式)が好調に推移していた、ということがあり、株式市場が大幅に下落したり、為替市場で円高が進行したりした際には、一時的にDBの運用利回りの方が良くなる可能性はあるでしょう。しかし、DC加入者は全体としてDBよりもリスクを取った運用を行っており、長期的にはDBを上回る運用利回りを獲得する可能性が高いと考えられます。

そうすると、DCの方が老後に受け取るお金が多くなる可能性があり、加入者の中でもDBよりもDCの方に魅力を感じる人が多くなっても不思議ではありません。少なくとも以前に比べると、加入者のDCに対する抵抗感はかなり低下してきているのは間違いないでしょう。

もちろんDCにも課題が多くあります。特に元本確保型のみで運用する人が相応に存在するという点については、対処すべき課題と言えるでしょう。現在のようなインフレの環境下では、元本確保型のみでの運用では実質的には目減りし、運用に積極的な人との間で老後資産の蓄積に大きな差が生じてしまいます。この点については一朝一夕に解決できる課題では無いですが、多くのDC加入者の満足度を高めるために、事業主の方々の継続的な努力が必要となる領域だと思われます。

昨今、新NISAの浸透、将来のiDeCoの拡充見込み等もあり、個人が自助努力で資産形成を図る機運がますます高まっています。こうした老後資産形成のうち、企業型DCに関しては、企業が運営する制度ですので、会社として加入者の資産形成をサポートしていく責務があります。

マーサーでは、加入者にとってより魅力あるDC制度とするため、事業主の皆様へのご支援を行っています。何かお困りの際は、ぜひご相談ください。

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青木 大介

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