ヘッジファンドと為替ヘッジコスト 

『オルイン』(2024年秋号 掲載)

ヘッジファンドの運用報告で、「ドルベースではしっかりリターンを獲得できているが、為替ヘッジコストが高いために、円ヘッジベースではマイナスになった」と説明を受けることがある。これは誠実な説明とは言えない。悪いのは為替ヘッジコストであり、あたかも運用者には非がないような印象を与えるためだ。しかし実際は、運用者が十分な結果を残していないことが根本原因なのだ。

為替ヘッジコストは、内外金利差で大部分が決まる。ドル預金の利率と円預金の利率の差と思ってよい。為替ヘッジ後マイナスということは、ドルベースでもドル預金以上の利率を稼いでいないのだ。ドルの投資家でも、「その結果なら預金しておいた方がよかったよ」と考えるだろう。つまりドルベースでも十分な結果ではないのだ。長らく金利のない世界を生きてきた私たちは、収益がプラスというだけで付加価値を生んでくれた気になってしまう。

そして、デリバティブの価格は、「デリバティブを使った完全に中立なポジションが、預金利率と同じリターンを生み出す」ように決まっている。たとえば、日経平均を1株40,000円で投資すると同時に、日経平均先物を1単位売り建てておくと、株価が上昇したとき株は利益を生むが、先物では損が出て、結果的には中立であり、リスクを取っていないのと同じだ。ここで、日経平均先物の価格とは、たとえば3か月後の満期に日経平均を売却できる価格のことだ。仮に40,025円だったとすると、40,000円で投資した株を3か月後に40,025円で売却できるため、25円の収益が確定している。この収益が、40,000円預金した場合の3か月間の収益と同じになるように、先物価格は決まっているということだ (新聞のマーケット欄を見ると実際の先物価格は現物価格を下回っているが、これは期間中に受け取る配当分の調整である)。つまり、預金利率を下回ったということは、中立よりも間違った方向にポジションを取っていた、簡単に言うと「負けた」のだ。

為替ヘッジコストが悪いのではなく、運用者が悪いのだから、「為替ヘッジコストが高いからヘッジファンドは当面やめておいた方がいい」という結論にはならない。為替ヘッジ外債とは性格が異なるのだ。誤解を与えかねない運用報告によって、投資家が誤った投資判断をしてしまわないよう、最低限、同期間のドル短期資産収益率を記載しておくなどの対応を期待したい。

著者
今井 俊夫

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