ディスカッション「仕事の未来 × 組織の未来」 

<パネリスト>

田中 研之輔 様

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事

株式会社キャリアナレッジ 代表取締役社長

UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了

専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を35社歴任。個人投資家。

著書31冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』、『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』、『プロティアン教育』『新しいキャリアの見つけ方』、新刊『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』、最新刊『Career Workout』 、『人的資本の活かしかた』日経ビジネス 日経STYLE他メディア多数連載

プログラム開発・新規事業開発を得意とする

荒木 克哉 様

日本電気株式会社

人材組織開発部 人材組織開発部長

大学卒業後に日系商社の海外営業で中南米・スペイン市場を担当。

米国でMBA取得後に、マーサー社で人事・組織コンサルティングを経験。 日本GEに入社し、複数事業およびコーポレートの人事部長を歴任。 その間に2度の日本企業への売却を経験し、自身も売却先で統合に深くかかわる。その後、2019年にジョンソン・エンド・ジョンソン 日本法人グループの人事統括責任者に就任。

2022年4月にNECに現職で入社。

ラヴィン・ジェスタ―サン

シニアパートナー

グローバルトランスフォーメーションリーダー

モデレーター

組織・人事変革コンサルティング 

シニアプリンシパル

松見 純子

パネルディスカッション概要

(敬称略)

日本企業における新しいワークOSの取り組み方

松見:今、Ravinからも日本の企業あるいは組織で世界が羨むような、大切にすべきものというのもあるというお話しがありましたが、いわゆるジョブ型への移行あるいは取り入れようという動きを今一生懸命進めている日本の企業・組織が多い中で、ジョブを一旦タスクに分解して、それぞれにマッチするスキルを人材側から探すといったことに関して、どのように取り組んだらよいとお考えですか?

荒木:両面からだと思います。個々の積み上げである日本の企業全体としてのケイパビリティと、ジョブ型で将来ビジネスを伸ばすために明確化されたケイパビリティは、現在たまたま会社の中で個人とジョブが一致していると思いますね。

ただ、いきなりそれを分解は難しいので、まずはジョブやキャリアの整理・見える化から取り組むことにはなる。ジョブ型の次にタスク・スキルの話というより、並行して起こると思う。今日本で大きく変革している最中という意味では、同時に働き方のマインドセットやインフラも変えやすいチャンスで、日本企業が持っている強みを生かしながらのジョブ型への移行を進めることが必要かと思います。

Ravin:次の時代へのシフトを日本で進める上で、日本の強みを活かすことも大切と考えます。日本企業が行っている問題解決できる人材の育成や組織全体の人材異動など、世界からEnvyされることも多く、次の時代を支える重要な要素でもあると思います。このため、世界のどこかの国のモデルをただ真似るのではなく、20年後を見据えて日本固有の強みをレバレッジすべきだと思います。日本固有の強みを維持しつつ、個人の説明責任や管理能力を強化することが必要であり、再設計の際はラーニングとウェルビーイングを仕事の流れの中に組み込むなど、会社と個人の新しい約束として、公平かつ持続可能なモデルを再設計する必要あります。

ジョブ型との類似点・相違点

松見:ジョブ型を考えるときに、組織として何を成し遂げればいけないか、どういう要件が必要なのかを考えるプロセス自体、Ravinの話と遠いものではないという理解でよろしいでしょうか?

荒木:日本企業の”ジョブ型”についての他社事例を聞くと、欧米のざっくりとしたJDの考え方と異なり、非常に精緻に標準JDを作っていこうとする。ただ、その過程で本日話しているスキルなどの明確化のプロセスも必然的に生じ、自然にタスク・スキルの話に結びつくと思います。

自律的なキャリア形成のために

松見:組織・企業が変わっていく中で、企業主体での人材のモビリティ・スキルの蓄積ではなく、個人が自律的にキャリア形成していくようになるためにはどのようなことが求められるでしょうか?

田中:個々のビジネスパーソンのポテンシャルを規定するようなJDの罠にはまってはいけないと思います。伴走・アップスキリングとしてのJDは良いが、規定要因や評価するためのJDが蔓延していることを危惧していますね。

まさに今、政府の取り組み・経済の取り組み・社会の動きが揃っていて、シフトの良いタイミングだと考えています。コロナなどで働き方について局所的ではなく全世界的に再考できた今、個人のキャリア開発にとってはものすごくドライビングフォースになると思います。

また、メンタルブロックを外すことがすごく大事で、これまでやってきたことの順守が仕事ではない。リモートワークなど、変わってきた兆しがあるので、戻してはならないと思う。ウェルビーイングやアップスキリングというフレームの中で、個々人が趣味を楽しむように仕事を楽しむべき。例えば「管理職」という名前や上司と部下という構造をやめて「グロースマネジャー」という名前を意識的に使ったりしています。

今、「色んな人が出会ってイノベーションを起こす」、「”このままだとダメだ“というキャリアショック」の2つのポイントが揃ってきているので、Ravinにも期待してほしい。

Ravin: 田中先生のおっしゃるキャリア開発のオーナーシップを会社から個人へシフトさせるという話は、日本における変革の核心になると思います。

日本企業における人材活用

松見:田中先生、ありがとうございます。荒木さんは日本企業の人材育成や人材活用の在り方についてはどう思われますか?

荒木:田中さんのおっしゃった通り、制度や上司の管理からの解放に皆さん賛同されるが、どうやって体現するかが乗り越えていかなければいけない壁。今までのマインドセットや権限などの変革が必要で、会社と社員の関係を変えていくチャンスは、今を置いてないと思いますね。危機感を持てば変われるので、私自身も外資系企業から日本の企業にいいタイミングで入社できたと、楽しみにしています。

田中:リモートワークについて店舗ビジネスの管理職から相談を受けたことがあるのですが、パフォーマンスを見ないで入場時間とGPSで不正をモニタリングしたいということでした。それはリモートワークじゃない。(笑)一人ひとりの可能性を信じなければいけない。管理職は今までそういう働き方を経験していないから「管理」が仕事だと思っているが、「管理」はイノベーションの敵。アジャイルでいいじゃないか。

本来、AIを活かすなら「何が売れるか予測して発注」などこそやっていかなければいけない。著書の中にもあった看護や小売など、IT・テクノロジーとの親和性が低い業界、その業界の人たちのタスクとウェルビーイングを見て行かなければいけないので、日本全体としてはまだまだポテンシャルの山だと思っていますね。

オートメーションの効果的な進め方

松見:Ravinの話の中で、ステップ1に「ジョブのタスク分解」、次に「人かAI」というステップ2があり、ステップ2をせずに「どう人材に仕事を分けるか」のステップ3に行ってしまうことがあるが、AI・ロボティクスをステップ2にどう組み入れるべきでしょうか?各企業でもCIOとCHROがそれぞれ別の所掌であることも多いが、どう会社全体として考えたらより効果的に進められるでしょうか?

Ravin: お二方からもすでにお話があったように、仕事をオペレーティングモデルの観点から戦略的に考える必要があると思います。ジョブという考え方に限定すると人事部門で完結してしまいそうですが、仕事を起点とすれば、人事部門のみならず、経営企画、財務、IT、マーケティング、などで横断的に話し合いをすることができます。

ビジネスリーダーが「○○社が新しいテクノロジー導入したから、うちも導入しよう」と言い出すのはよくあることですが、潜在的な可能性の30〜40パーセントを実現しただけに終わることが多いです。一方仕事を起点とした場合、影響ははるかに大きくなり、ビジネスの新しい機会をも生み出すことができるのです。実際、著書の最初のケーススタディでも取り上げたある世界的な小売企業でも、テクノロジー導入でコスト削減ではなく、逆の結果が生じていました。一歩下がって、「私たちが成し遂げたい仕事は何か、この技術は私たちのアーキテクチャにどのように適合する可能性があるのか?そして、この技術が仕事にどのような影響を与えるのか」から始めることが肝要です。

今後の人事部門の在り方

松見:こうした動きの中での人事部門の役割あるいはその在り方・動き方の変化についてコメントいただけますか?

荒木:事業戦略と制度の間の仕事についてはあまり専門家がいない。それを担うのは人事だと思います。いろんな部門と話してリードし、厄介な税務・法律についてテクノロジーを活用して乗り越えていけば競争力が上がっていく。ここのストラクチャーと専門性がどんどん人事に求められるし、実現には総合的にチームを作る必要がある。より開かれた世界でジョブのデザイナーになっていくので、人事の役割も大きく変わっていくと思います。

田中:荒木さんの話に賛同しますね。経営戦略、事業戦略、キャリア戦略(人材戦略)の3つがこれからの日本を変えていくと思います。つまり、人事はずっとサブユニットとして支えてきたが、それをやめてくださいと。例えば三井情報さんでは副社長がCHROを兼務しているように、経営者の右腕がこれからのHRユニット。人的資本経営でいうなら、経営企画や新規事業のトップ人材を人事に入れてHRBPを戦略的に回す必要があると考えます。

実践している企業はたくさんあり、みずほさんでもAdobeの元副社長がCP(people)Oとしてマーケティング視点で人事を組み替えているなど、ヒントになる取り組みが多々あります。Work without Jobsを誰かにやってもらうのではなく、自分たちでできることなど、本当にスモールアクションが大事だと思います。経営層なら組織を作るアサインをしてほしいし、人事部なら誰とコラボレーションできるか。

赤石さんも本日人材事業に期待しているとおっしゃっていたが、これからの人事部門を皆で作っていかないと日本企業の再躍進がない。人事部門こそが中枢部門だと、改めてこの本を読んで気づきを得ました。

例えばものすごく印象的だったのがP254、AmazonとNetflixとGoogleを合体させたプラットフォームの話があるが、著作の通り本当に仕事の無駄が多い。この呪縛をどれだけ解いていくかのチャレンジで、どのピースから崩していくかが本日午後からの我々のタスクだと思いますね。

Ravin: 荒木さんの「人事部門の再構築」にもとても共感しました。人事部門が雇用の管理から仕事の管理へと、その使命をシフトする世界的潮流を機会としてしっかり捉えれば、輝かしい専門職となる可能性があると思います。

欧米における人事部門の変化

松見:人事に求められる変革について、荒木さん田中先生からお話ありましたが、欧米において、ジョブからスキルへの移行に関して、人事部門はどのような変化をしているか、あるいはしようとしているのでしょうか?

Ravin: 人事部門において本当に大きな変化を目の当たりにしています。オペレーティングモデルが、従来のコンプライアンス重視の雇用の管理者から、より戦略的な仕事の管理者にシフトしています。

ジョブでなく仕事に焦点を当て、仕事の再設計を行うことを実践し始めています。また、非雇用労働者(アウトソーシングやギグタレント)がますます増えているアメリカなどの国では、人事部門の任務も従業員の管理者からWork Experienceの責任者へと拡張されつつあります。つまり、会社のミッションに貢献するすべての人が、ブランドを代表できるよう、会社のパーパスが何であるかを知っていることを保証することが求められるのです。

さらに、テクノロジーの選択肢が増えるにつれ、人事部門のサービス提供モデルも劇的に変化しています。

プラットフォームの効果的な導入

松見:AI・ロボティクスを活用した人の持っているスキルとタスクを結びつけるプラットフォームは、部分的に進めていくのか、大きなプラットフォームを最初に考えるのが良いでしょうか?

Ravin: 従来のやり方とはあまりにも大きく異なると思うので、ビッグバンは適していない。限られた領域で実験し、その影響を確認することを、反復・拡張していくことこそ重要だと考えています。ユニリーバの例を思い起こせば、2018年から5年間、彼らは数カ国で小規模な実験を行い、素早く失敗から学び反復しながら、拡大していきました。そこで一番重要なのは、「うまくいった、いかなかった」ではなく、「何のために実験しているのか、達成のための最善の方法は何か、失敗から何を学んだか」なのです。早く失敗して教訓から学びながら実験を続けることに意味があるのです。

松見:どんなアクションを最初にとったらいいかのヒントはありますか?

荒木:私たちのいる会社の将来をどういう状況にしたいか、数年先でいいのでイメージする、そしてそれを作っていくために何が必要かを考える。人事部門がこのようなことをしようとすると、人事部門にもマーケティングのセンスが必要など、いろんな動き方が見えてくる。現有の人でできないのであれば、どういう人・スキルが必要か考える。

欧米では近年急速に人事の重要性が高まっている。一方日本ではずっと人事部門を大事にしてきた。優秀な人も集まっている。マインドセットの転換さえあれば、大きく変わることは可能。 

最後に一言お願いします

Ravin: この新しいWorkモデルで本当に大切なことが3つあると思います。

1つ目はマインドセットです。取締役会、リーダー、規制当局、働き手に至るまで、あらゆるレベルでマインドセットの転換が必要です。

「学び、働き、引退する」というモデルは人生100年時代になると、どんな国でも、通用しなくなるのです。新しいモデルは、「学び、働き、学び、働き、もしかしたら新しいスキルを身につけるために休みを取る」となることもあります。人材や組織、社会が、継続的なスキルアップやリスキルの必要性を信じ、受け入れ、人々がそのためのスペースやリソース、時間を確保できるような文化やマインドセットを作ること。このマインドセットは、私たちにとって大きな変化だと思います。

2つ目は、仕事に対する考え方の新しいガードレールです。私たちが話している変化は、人事部門やCEOからのトップダウンだけでは実現できないため、クライアント企業に対して、職場全体が参加し変革を実践する3つの条件をお伝えしています。

従業員が変化を起こす方法を理解し、関与していること、参加する動機を持っていること、安心して変化を実践できる余地を設けることです。「あなたの雇用を打ち切るつもりはない」を約束することなどがそうです。

そして、3つ目はこれまで何度も触れていますが、「構造化された方法で実験を行っているか」です。単発の実験ではなく、ちゃんと大きな変化につながるよう、いかに構造的な規律あるアプローチでリーダー一人ひとりを巻き込みつつ進めるか、も肝要となります。

以上、3つのポイントがお役に立てば幸いです。

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