変革を主導しやすい内部昇格CEOの「ある経験」とは? 

マーサーアカデミックコラム 第6回

08 2月 2023

マーサーアカデミックコラム 第6回

変革をリードするCEOとは?

グローバル化やデジタル化の進展により、世の中の変化のスピードは加速度的に高まっている。このような状況下で、従来のビジネスの延長では立ち行かず、全社的な構造改革に差し迫られている企業も多いだろう。例えば、経済産業省が発表した事業再編実務指針では、日本企業の現状について「企業として生き残りを図ろうとすれば、現状維持あるいは既存事業の改善・改良では足りず、競争優位を築くための新規分野への成長投資を継続する必要があり、そのためには、リスクに耐えられる内部調達資金を確保するための収益力を改善するための構造改革を行うことは不可避であるといわざるを得ない」との指摘が見られる1

企業存続をかけた変革が求められる中で、社外から招聘したプロ経営者をCEOに据え、自社に新しい風を吹き込もうとする企業も出てきている。社内のしがらみに囚われないプロ経営者は、内部から昇格したCEOと比較して変革を成し遂げてくれそうであると直感的に感じる方も多いのではないだろうか。しかし各国の時価総額上位上場企業の新任CEOは内部昇格者が大半を占めているのが実態である2

全社戦略の変革を切望する企業は、どのようなCEOを内部から選ぶと良いのだろうか。本コラムでは、Strategic Management Journalに掲載された、社外での取締役経験が内部昇格CEOに与える影響を検証した経営学の論文3を取り上げ、全社戦略の変革(strategic change)をリードするCEOの経験に着目する。

CEO就任前の自社・他社での取締役経験が新たなCEOに与える影響

内部から昇格したCEOは、社外から招聘されたCEOに比べて全社戦略の変革を主導する可能性が低いと考えられてきた。しかし、一口に「内部昇格CEO」と言っても、変革を主導しやすい傾向にある属性の人材とそうでない属性の人材がいるため、両者の違いに着目する研究が存在する。今回取り上げる香港理工大学のZhu教授らの論文は、こうした論文の一つである。Zhu教授らは、内部昇格CEOの、CEO就任前の「取締役としての経験」に着目した。

本論文では、2001年の米国S&P1500の企業を対象に、2001年から2012年までの間のCEOの遍歴を追跡し、十分な情報を入手できた697名のCEOをサンプルとして調査を行った。697名のうち、429名は自社で1年以上フルタイムのエグゼクティブとして勤めた経験のある内部昇格CEOであり、268名は外部招聘CEOである。さらに、429名の内部昇格CEOを以下の3つの属性に分類している。

a)1年以上、自社での取締役経験を持つ(235名 / 55%)
b)1年以上、他社での取締役経験(社外取締役経験)を持つ(65名 / 15%)
c)a・b両方の経験を持つ(43名 / 10%)
d)a・bいずれの経験も持たない(86名 / 20%)

これらのサンプルをもとに調査を行った結果、以下の2点が明らかになった。

A)自社での取締役経験を持つ内部昇格CEO4は、そうでない内部昇格CEOに比べて、全社戦略の変革5を主導しにくい
B)他社での取締役経験(社外取締役経験)を持つ内部昇格CEO6は、そうでない内部昇格CEOに比べて、全社戦略の変革を主導しやすい

このような結果になる要因として、自社もしくは他社での取締役経験が内部昇格CEOの「戦略的な視野」および「既存戦略へのコミットメント」へ与える影響が本論文では指摘されている。

CEO就任前に自社で取締役を務めることで、必然的に前CEOや取締役会メンバーとともに戦略策定プロセスに深く関わる。その議論の過程で取締役会メンバーに共通の考えが形成され、戦略的な視野が凝り固まりやすくなる。そして、戦略を検討した当事者であるならば、当然「これは正しい戦略である」と信じたくなるはずであり、その結果として既存戦略へコミットする気持ちも強まる。

反対に、CEO就任前に他社で取締役を務めることで、外部環境の変化や、それに対して取り得るアクションの知見が増える。結果として、戦略的な視野が広がり、自社の課題に対してクリエイティブな解決策を着想しやすくなる。さらに、他社で経験を積むことで自社を客観的に見ることができ、異なる視点から自社の既存戦略を評価しやすくなる。こうして、自社の既存戦略や凝り固まった組織カルチャー等に対してより敏感になり、これらを変革するようになる。

こうした構造により、他社での取締役経験を持つ内部昇格CEOは、CEO昇格後に全社戦略の変革を主導する可能性が高まると指摘されている7

他社での取締役経験がアンラーニングを促す

本研究を踏まえ、他社での取締役経験が内部昇格CEOにもたらす影響について筆者の考えを述べたい。

他社での取締役経験のある内部昇格CEOの例として、米ゼネラルモーターズのCEOであるMary T. Barra氏が挙げられる。Barra氏はゼネラルモーターズに勤める傍ら米国の重機械メーカーであるジェネラル・ダイナミクスで社外取締役に就任した後、ゼネラルモーターズのCEOに昇格した。現在は、自動車の電動化・コネクテッド化等の変革を主導している最中である。

Barra氏のようにある企業のエグゼクティブが他社の社外取締役を兼務する例は、米国では一般的に見られる。ただし、反トラスト法により、同一業界内で取締役に就くことは禁止されている。したがって、他社の社外取締役を兼務している人物は、自社とは異なる業界に携わっている。

業界が異なる他社の取締役を務めることで、自社や業界の慣習・ルールから距離を置き、異文化の中で戦略構築に関わることになる。こうした経験により、従来深く刷り込まれていた自社のビジネスに関する固定観念が徐々にアンラーニング8され、新たな発想で変革を主導できるCEOが生まれてくるのではないだろうか。

日本企業を変革するCEOの育成に向けて

多くの日本企業が変革の必要性に迫られている中、全社戦略の変革を主導できる経営者を育てていくことは重要なテーマだろう。Zhu教授らの論文は、こうした変革リーダーの育成を考える上で、示唆を与えてくれるものである。

CEO候補者に他社での社外取締役経験を積ませることは、日本においても有用な育成手法の一つとなるだろう。実際に、日系大手企業CEOがCEO就任前から複数社の社外取締役を務める、日系大手企業CHROがスタートアップ社外取締役を務めるなど、いくつかの事例も出てきている。

将来のCEO候補者の育成に向けて、社内の要職を経験させ、社内で一皮剥ける経験を積ませるよう働きかけてきた企業は多いだろう。しかし今後は、社内だけでなく社外で一皮剥ける経験も有益な選択肢になると考える。実際に筆者が知る企業でも、幹部候補人材を他社に「留学」させる、複数社の幹部候補人材同士を集めた合同研修・ワークショップを開催するなど、社外で学ぶ経験を増やそうと取り組んでいる企業は多い。いきなり社外取締役として自社の取締役やその候補人材を送り出すのは難しくとも、まずはこうした取り組みから着手し、社外で学ぶ機会提供をするとともにその効果検証をしてみるのも良いのではないだろうか。

企業全体としての変革が求められる今、CEO候補者育成も従来通りのやり方では立ち行かなくなっていく可能性が高い。全社戦略と同様、CEO候補者育成のあり方も変革してみても良いかもしれない。

***
1 経済産業省 事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)
2 Strategy& 2018年CEO承継調査
3 Zhu, Q., Hu, S., & Shen, W. (2020). Why do some insider CEOs make more strategic changes than others? The impact of prior board experience on new CEO insiderness. Strategic Management Journal, 41(10), 1933–1951.
4 CEO就任前の10年間において、自社の社内取締役であった年数を基に測定している
5 全社戦略の変革であるが、これはCEOの裁量で影響を及ぼすことが可能であると考えられている次の6つの指標を基に、CEO就任から2年後の変動を測定している:1)売上高広告費比率、2)売上高研究開発費比率、3)新規設備導入比率、4)売上高販管費率、5)売上高在庫比率、6)レバレッジ比率
6 CEO就任前の10年間において、他社の社外取締役であった年数を基に測定している
7 本論文を読み解く上での注意点を補足しておきたい。本論文で着目しているのは、「全社戦略の変革を主導するか」であり、その戦略が成功するか否かは分析対象としていない
8 有効でなくなった既存の知識やスキルを捨てること

監修

著者
藤原 佳朋里

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