イノベーションを支える多様性の文化
DEI ロールモデル対談 第3回
佐藤 聖子 様
ソニー株式会社 モバイルコミュニケーションズ事業本部 設計開発担当・ソフトウェア技術部門 統括課長
モバイルコミュニケーションズ事業本部の前身であるソニー・エリクソンに新卒入社し、国内向けアプリケーション開発を経験。UI(ユーザーインタフェース)フレームワーク開発や画面レイアウトを担当し、日本でのスマートフォン普及に貢献した。2011年4月から1年間は育休を取得し、復帰後はリーダー業に専念。2021年2月に課長就任。
組織・人事変革コンサルティング部門 アソシエイト
多様な働き方を知り、人脈を広げた若手時代
これまでのキャリアについて教えてください
もともと携帯電話に関わる仕事をしたいと思っていたため、大学時代は携帯電話の通信方式について研究していました。新卒1年目は国内向けのアプリケーション開発に携わり、入社4か月目にしてスウェーデンとの混合チームで働くようになりました。日本とスウェーデンのメンバーが半々のチームで、画面レイアウトの担当をしていたのですが、異なる文化の人と働くということがどのようなことなのか、身をもって感じました。スウェーデンのメンバーはONとOFFがはっきりしていて、私が遅くまで残業していると、日本より7-8時間も時差のあるはずのスウェーデンチームの方が先に切り上げて帰っていたこともあるんです。また、コミュニケーション一つとっても日本のやり方では通じず、その人にとって何が大切なのか考えたうえで仕事を頼む必要があると感じたのを覚えています。
その後、モジュールアーキテクトの責任者としてソニー・エリクソン(現ソニー)のAndroid1号機である「Xperia X10」の開発に携わり、ソニーらしさを特徴づける青を基調としたカスタマイズを手掛けました。1年間の産休・育休後は国内オペレーターとの協業に向けた新規チームの立ち上げを通じてリーダー業務を経験し、現在は課長として20人のチームを束ねています。
若手時代を振り返り、チャレンジングな出来事を乗り越えるために取り組まれたことはありますか
節目節目で一つ上のロールにチャレンジさせてもらいました。モジュールアーキテクトの責任者を務めた時も、「今の自分には難しいかもしれないけれど、少し頑張れば手が届くかもしれない」という仕事が降ってきて、背伸びしながら取り組みました。壁にぶつかることもありましたが、その度にいろいろな人に相談しては新たな人を紹介してもらい、人脈を広げながら解決の糸口を見つけていったように思います。環境と境遇にはとても恵まれていましたね。
研修を通じて感じたマネジメントの魅力 - チームメンバーは第二の家族
これまでのキャリアのターニングポイントはありますか
課長になる前の半年間の研修です。「メンターメンティー制度」というもので、個人の目標や志向を踏まえて人事がマッチングしてくれた他部署の上位者であるメンターと、月に1度、ディスカッションを行います。テーマは自分で決めるのですが、私の場合は、会社の良いところや改善したほうがいいと思うところについて話しながら、自分はどのように動くべきか、アドバイスをもらっていました
もともと、スウェーデンとの混合チームのリーダーや当時の課長に憧れていたため、マネジメントに対してポジティブな印象は抱いていました。そのリーダーは日本人ですが、文化的背景も含めてスウェーデンチームのことをよく理解していて、とても上手にまとめていました。また、課長はプライベートも含めて気遣いができる方で、結婚したばかりの私をいつもサポートしてくださいました。一方で、商品としてできあがっていくものを見ることに喜びを感じていた私は、マネジメントになるとその過程から離れることになるのではないかという思いから、研修が始まる前に行われた人事面談では、「課長になるのはちょっと・・・」と伝えていたのを覚えています。
ですが、この研修が終わる頃には自分でも気付かない内に、「マネジメントって面白いかも」という気持ちが芽生えていました。マネジメントの具体的な業務内容について学ばせてほしいと部長に相談してみると、部課長が参加するマネージャーミーティングに出席する機会をいただき、マネジメントが何を考えているのか少し分かるようになったことで、自分も挑戦してみたいと思うようになりました。
実際に課長になってみて感じるマネジメントの難しさや醍醐味について教えてください
組織作りやアサインには、課長ならではの難しさがあります。リーダーや係長の頃は、半年経つと組織作りの方向性が見えたのですが、課長になるとなかなかそうもいかず、会社や部門の方向性を組織づくりに反映させつつ、各メンバーのモチベーションと合致したアサインを心掛けたり、次々と物事の判断をしたりしていかなければなりません。ただ、どんなに忙しいとしても楽しさを見失わない組織でありたいと思っています。また、業務のアサインについては、成果が求められる分、責任も感じますが、自分が思った通りに進められた時には大きな達成感があり、これこそが醍醐味といえるのではないでしょうか。課長になったことで、「自分がどうしたいか」ではなく、「会社としてどうあるべきか」という視座を持てるようになったとも感じています。
メンバーの育成において工夫していることはありますか
私はチームのメンバーを第二の家族だと思っています。得意な領域を伸ばすのが良いのか、苦手な領域を克服するのが良いのかなど、一緒に考えながらメンバー一人ひとりの個性を引き出したいです。また、メンバーと接する時には、完璧ではない自分も見せるようにしています。「こんなミスをして上司に怒られちゃった」ということもあえてさらけ出し、「失敗をしてもいいんだ」と思ってもらえるようにすると、メンバーの協力を引き出すこともできます。最近は、少しずつメンバーの気持ちが見えるようになってきたと感じられて、とても嬉しいです。
多様性を認め、互いを支え合う文化
貴社のDE&Iについて教えていただけますか
多様性は創業当初から大切にしてきました。創業者の一人である井深大の言葉に、「企業もお城と同じ。強い石垣はいろいろな形の石をうまくかみ合わせることによって、強固にできる」というものがあります。エンジニアは特に女性が少なく、フロアの女性トイレが男性トイレに変えられてしまったこともありましたが、「活躍できる人にはより上位の役割を任せる」という考え方やその機会に男女差はありません。
DE&Iについて、佐藤様ご自身のご経験や感じていらっしゃることがあれば、教えてください
私自身、産休・育休後は時短で働いていました。時短の場合、遅い時間のプロジェクトミーティングへの参加が難しくなることから、育休後の働き方について上司に相談したところ、ちょうど私に任せたいと思っている仕事があると、プロジェクトに入るのではなく、リーダー業に専念できるようにしてくれました。実は休み明けに、「これからは時短勤務になるから迷惑をかけるかもしれないけどよろしく」と言って、同じチームのメンバー一人ひとりにお菓子を持って挨拶をしに回ったんです。この後、案の定子供が風邪を引いて、3か月間に15日も仕事を休むことになり、本当に周りの人に助けられることばかりでした。
女性管理職が少ないと言われていますが、女性だから管理職に登用するというのではなく、あくまでもロールに合う人を登用することが最重要だと考えています。例えば、力仕事が求められる工事現場で、ダイバーシティーだと言って作業員を男女半々にすることはありません。ただ、ロールに合う人を選ぶ時に、その候補者となる女性がたくさん出てきてほしいなと思います。
子育ての経験は仕事に還元できる。ワーキングマザーこそマネジメントに挑戦を
最後に読者へのメッセージをお願いします
若手のうちには様々な経験を積んでおいてほしいです。節目節目でちょうど良いロールが降ってきたという話をしましたが、仕事を誰に任せるか考えた時に、いつも私の名前が候補に挙がっていたと聞いたことがあります。経験の幅が広いほど、「あの人はこんなことをやっていた」と名前が挙がることも増え、チャンスも広がります。その意味でも、新たな経験を積める機会が巡ってきたら、思い切ってチャレンジしてほしいです。会社側はあなたならできると期待して任せていますので、失敗を恐れずに取り組んでみてください。
また、子育てとマネジメントには通じる部分があり、私自身、子育て経験が仕事上のマネジメントに活かされていると感じる場面が多々あります。例えば、子供への接し方と職場での人間関係の構築の仕方には共通するものがあり、自分の子供が喜んでくれたことは、職場でメンバーにも喜ばれます。子供の方が自分の接し方や声の掛け方に対する反応をダイレクトに返してくれるので、子供とのコミュニケーションでいろいろ試してみて、それを職場で応用するようにしています。子育てと仕事の両立やマネジメントへの挑戦を難しく思われている方には、ぜひ子育ての経験は仕事に還元できる、仕事の経験は子育てにも還元できると前向きに捉えてほしいです。
2021年12月13日 対談実施
【編集後記】
チャレンジングなロールにも一つひとつ向き合い、ご経験の幅を広げられる中で、時には周りの人に助けられ、また時にはチームメンバーの問題解決の架け橋になりながら、お互いを支え合っていらっしゃる姿がとても印象的でした。これは、チームメンバーを第二の家族と考え、メンバーの気持ちに寄り添うとともに、その能力や個性を引き出すマネジメントにも表れていると感じました。
制度や仕組みを整えることも重要ですが、ワーキングマザーとしての子育ての経験を含め、各自が持っているものを持ち寄り、それを最大限引き出そうとする努力が、一人ひとりを尊重し、活かす、ダイバーシティーの実現につながるのではないでしょうか。