【セミナー書き起しレポート】日本の給与のメカニズム - なぜ上がる?なぜ上がらない? 

マーサーの取締役執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表の白井正人が、現在起きている賃上げの背景や、給与が上がるメカニズム、上がらないメカニズムの解説を中心に、各社の施策方針立案にお役立ていただけるよう参考情報や最新の給与調査結果などを踏まえ、日本国内における現在の市場実態をお伝えしています。

現在の経営環境において “なぜ給与が上がるのか” 改めて日本の市場原理をご理解いただくとともに、これから先の自社施策方針をご検討いただく際に、ご活用ください。

※本レポートは2023年4月14日に開催したセミナーの書き起こしです

Section1:いま日本の給与に何が起きているのか?その構造と影響とは…/白井 正人

ご紹介にあずかりました白井です。

今日は大きく前半と後半に分かれます。

前半のセクション1では、給与が上がる、上がらないということに関して、その構造について私(白井)がお話をさせていただきます。後半のセクション2では、マーサーで収集しているデータに基づいて給与の実態がどうなっているのか、児玉のほうから話をさせていただきます。

ではまず基本の構造についてお話をいたします。

ここのところ、年明けから現在まで、特に春闘などもありましたので、国は「給与を上げてくれ」と、新聞紙面でも「上げる」とか「上げるべきだ」とかそういう記事がよく見られました。

ご覧いただいている図はGoogle Trendで見てみたグラフですが、「賃上げ」というキーワードの検索数が、昨年末から年始にかけて4、5倍になっているのがわかります。皆さん非常に興味があるところなのだなと感じています。その理由として、単純にインフレだからというのもあるかとは思いますが、一方で、これまで給与がなかなか上がらなかったところで国のほうから「上げてくれ」とあり、それでもなかなか上がらなかった状況がある中で話として急に盛り上がったといいますか、皆さんの興味を呼び起こしているのではないかなと、なぜそういうことが起きたのか私なりに整理してみました。

次の図のグラフ(1992-2021年間平均賃金の推移)を見ますと、92年ですからバブル崩壊くらいからここ30年間くらい日本の年間平均賃金は、40,000ドルを少し切るくらいのところで見事にほぼずっと横ばいに推移しているのがわかります。給与の等級によって多少の違いはありますが、傾向値としては大体年間日本円で500万円くらい、年によってはそこから落ちていることすらある、といった推移になっています。

比較して、グラフの一番上のアメリカは、30年前50,000ドルくらいだったのが現在75,000ドルですから1.5倍くらいになっており、これを見てもアメリカは成長している国で給与も上がっていることがわかるかと思います。

その他、代表的な先進国で見ますとドイツやイギリスは、アメリカほどの伸びではないにしても日本と比べれば上がっています。30年前イギリスは日本より下の値(35,000ドル)だったのが完全に逆転して今では50,000ドルくらいまで上がっていますし、ドイツも45,000ドルくらいから今では55,000ドルになっています。とにかくどの国もしっかり上がっているのに、日本だけがなぜか低迷してしまっているわけです。

それが今回日本でも給与が上がったことは、総合的に見れば私は良かったと思います。経済学者の方々は悪いインフレで給与が上がるのはいかがなものかとおっしゃっていますが、それでも給与が上がること自体は悪いことではないと思います。

ただ、インフレが直接の引き金だったのはその通りですが、それだけで説明がつくのだろうか、これまでの30年の間も経済環境はいろいろあり、その間周りの国の給与が上がっている中で日本だけなぜ上がらなかったのか、それがなぜ今回上がったのか、この辺りのことを少しじっくり見ていきたいと思います。

次の図をご覧ください。

「給与はなぜ上がるのか?」については、普段考えているようで意外と考えていない問題なのではないでしょうか。日本にお住まいで日本にお勤めで、外資系であったとしても会社は日本にあって、そこで働いていると、なんとなく「年を経たら給与は上がってくれないと困る」「上がるべき」という感じで昇給は受け入れられてきたのではないかと思います。

ただ、給与が上がるのに、「なんとなく」ではなく、合理的な理由というのも三つほどあります。

Secion2:日本企業の給与の実態をデータから見ると…/児玉 由美子

ではここからは「日本企業の給与の実態をデータから見ると」ということで、マーサーが保有するデータを使いながらご説明いたします。私、児玉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

はじめの図をご覧ください。

今年の春の労使交渉では、政府や経団連、連合の強い後押しもあり、満額回答が続いたり、物価上昇以上の大幅な賃上げを行うような企業の報道が相次いだりしました。中でも1月に報道されたファーストリテイリング社の、国内人件費15%増、キーとなるポジションに対しては最大4割の年収が上がるといった報道は国内外で驚きをもって受け止められ、私どもも海外ネットワークを持っていますので、海外のコンサルタントから、「このファーストリテイリング社の決定は日本の労働市場にどういった影響を与えるのか」といった問い合わせを多々受けました。また、労使交渉が始まってみると、トヨタ自動車社やホンダ社のように、集中回答日前に満額回答を出す企業もたくさんあり、やはり産業全体で賃上げに向けた動きが加速していることを実感していました。

実際に賃上げの理由として挙げられているものとしては、各社それぞれではありますが、単なるインフレの対応、インフレ下における従業員の生活の保障というだけではなく、外部の労働市場から人材を獲得するための競争力を担保するためであるといったコメントを出す企業、あわせて、新卒採用時の初任給のアップを公言される企業が非常に多かったことが印象的だったと思います。

次の図をご覧ください。

報道では業界のトップ企業の試み等が大きく取り上げられがちですが、マーサーでは様々な市場のデータを持っていますので、実際にデータを見ながらどのように日本企業が処遇を行なっているのかという特徴を見ていきたいと思います。

次の図をご覧ください。

昇給につきまして、マーサーでは、今年の2月に「昇給、リスキリング、キャリアに関するスナップショットサーベイ」という調査を行ない、その結果を3月に公表しました。図の左側「予定昇給率」というところ、2023年が最新の調査結果、2022年のグレーのところが、マーサーで経年調査している総報酬サーベイにおける昇給率の回答をまとめたものになっています。こうして見てみますと、セクション1でもあったとおり、これまで日本の市場において昇給率は大体2%前後で動いているというのが定説でした。それを表すように2022年のグレーのグラフを見ますと、1-2%未満、2-3%未満と回答している企業が全体の8割を占めています。一方で、2023年の最新のデータになると、2-3%未満の回答が大多数を占める点は変わらないのですが、3-4%の回答が24%、4-5%の回答が15%と、それぞれの企業において昇給の予算を確保する割合が増えてくる、上のほうの数値により多くの予算を確保していたことがよく見てとれるかと思います。ただ、報道であったような、5%を超えるような昇給については全体の9%にとどまっていて、やはり各業界のトップ企業等、一部の対応にとどまっているというように見えています。

では、今年2023年の昇給を決定する際にどのような要素が考慮されたのかという点を同じく最新の調査で聞いています。日系企業と外資系企業において少々傾向に差が出ていて、日系企業の場合は、「業界内の競合の水準および賃上げ動向」が1位、2位に「自社の業績」があがるのに対して、外資系企業は1位に「インフレ率・物価動向」があがっています。2位は「業界内の競合の水準および賃上げ動向」になっています。外資系企業の場合、インフレだからすぐに昇給させるのではなく、あくまでも市場価値に応じて昇給を決めていくことが一般的ですから、1位にインフレ率があがるということは、いかに外資系企業の中で今回のインフレ率が市場の報酬水準に影響を与える先行指標として見られていたか、ということがお分かりになるかと思います。

次の図をご覧ください。

日系企業と外資系企業、日本においても報酬差があると、セクション1でもお伝えしたかと思います。図の縦軸が年収、横軸がマーサーが保有する役割評価の評価結果を数値で表した指標になっています。「48」が中堅・中級の専門職、「54」が課長、「57」が部長、「63」が経営幹部、のようにイメージをしてください。ピンクのカーブが日系企業でブルーのカーブが外資系企業。実線が2022年つまり昨年のデータ、点線が2021年つまり2年前のデータです。外資系のほうが日系企業よりも水準が高くなっていることは一目瞭然ですが、経年で見た場合に着目していただくと、日系企業の変化が前年比0-2%の間で推移しているのに対して、外資系企業では1-4%と、日系企業よりも上昇幅が広くなっています。その結果、日系企業と外資系企業の報酬水準の差が広がっているということになります。なぜこのようなことが起きるのか、セクション1でもあったとおり、日系企業の場合、元々報酬が上がりにくい構造になっている一方で、外資系企業は常に労働市場の人材獲得競争に晒されていますので、特に優秀な人材、ハイパフォーマーに対しては、思い切った昇給をしないと離職リスクにつながってしまうため、メリハリの効いた処遇をしているところからこのような差になると考えられます。

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