戦略的福利厚生制度と25のリスク

人材は組織の重要な強みですが、適切に管理されなければ、ビジネスに重大なリスクをもたらす可能性があります。人事とリスクマネジメント部門が協力して人材の安全性保護やモチベーション維持に取り組むことが、かつてないほど重要となっているのです。

コロナ禍にて、企業経営陣の間では人的リスクについて議論の機会が増えました。ウイルスが蔓延し始めると、多くの企業は、従業員がビジネス全体の健全性にとっていかに不可欠であるかが明らかになり、従業員支援へのアプローチを急速に見直しました。

雇用主が提供する健康保険、リスク対策、福利厚生制度はコロナ禍を経て、従業員にとって重要性を増しました。経営陣は、ウェルビーイングが事業の継続性、安全性、顧客経験、さらにはキーパーソンリスクに与える影響を認識しています。実際、当社の人材トレンド調査によると、この問題は経営陣が提起する最重要課題となっています。

マーサー・マーシュ・ベネフィッツ(MMB)では、人的リスクの解決をビジネスとしています。私たちは25の人的リスクを5つの主要なカテゴリーに分類することで、組織が最も適切な脅威を特定し、優先順位をつけ、管理し、適切な行動をとる手助けをします。

25の人的リスク

健康と安全

1. メンタルヘルスの悪化: 従業員のメンタルヘルスの問題(不安、ストレス、うつ、依存症など)は、生産性の低下、必要以上の福利厚生費の支出、企業ブランド力の低下を招く可能性があります。

2. 従業員の疲労:ワークライフバランスの問題や、急激な環境変化への対応等からくる過労は、離職率の高さ、生産性の低下、職場評判の悪化につながります。

3. 非伝染性疾患:糖尿病、肺疾患、がんなどの慢性疾患が適切に管理されないと、事業継続性、運用コスト、個人と組織の全体的なパフォーマンスに影響を及ぼします。

4. 伝染性疾患: 感染症(将来のパンデミックを含む)の蔓延は、事業継続に影響を与え、個人と企業レベルの両方で高い運用コストとパフォーマンスの低下をもたらします。

5. 業務上の病気や怪我:労働環境(現場、リモートワーク)における事故、や業務による既往症の悪化は、罰則、企業ブランドの毀損、従業員関係の悪化につながる可能性があります。

人材の活動

6. 人材の採用、定着、エンゲージメント向上: 強力な人材パイプライン、従業員価値提案、労働力を維持し、モチベーションを高めるために必要な成長機会を創出できないこと。

7. 行動と文化: いじめ、ハラスメント、不正行為などの不祥事。あるいは、企業価値とかけ離れた行動や違法・非倫理的な行動を助長するような職場文化。これは、評判に大きなダメージを与え、法的措置につながる可能性もあります。

8. 後継者リスクとキーパーソンリスク: 後継者不足と人材流出リスクは、企業が重要な人材に大きく依存することになり、その人材が働けなくなった場合、深刻な混乱が生じる可能性があります。

9. 仕事の性質の変化:柔軟な働き方、ギグワーカー、テクノロジーの導入、成長志向に関連する問題は、イノベーションや労働力管理などの分野で新たなビジネス課題を生み出します。

10. 出張と移動:出張や海外赴任は、危機管理・避難管理、安全配慮義務など、様々なリスク問題を引き起こします。

デジタル化

11. 人事戦略とビジネス戦略の不一致: 人材計画、組織変更管理、人事/福利厚生の技術やプロセスが戦略的なビジネスビジョンと整合していないことは、企業の発するメッセージ性の低下、ビジネスに対する信頼度の低下、や人材の不一致につながります。

12. スキルの陳腐化:急速なデジタル化と自動化により、従業員の能力にギャップが生じ、その結果、ビジネス目標が達成されないこと。

13. サイバーセキュリティ:人材管理プロセスやベンダーに起因するサイバー犯罪がますます巧妙化・多発し、事業の中断や企業ブランド毀損につながる。

14. データプライバシー: 個人情報の紛失や悪用につながる違反行為。

15.  時代遅れの人事テクノロジー: 人事活動、福利厚生、ヘルスケアなどをより個別化、便利化、安全化するためのテクノロジーの進化を活用できず、最適な従業員体験を得られないこと。

環境と社会

16. DEI: 従業員、顧客、その他のステークホルダーの間で評判となる、包括的な多様性、公平性、インクルーシブな職場環境の欠如。

17. 環境: 気候変動や環境悪化による雇用の低下、職場への影響(例:洪水、火災)、従業員の健康問題(例:干ばつによる飢餓・飢饉、汚染によるアレルギー・喘息、水を媒体とする病気の増加)などがリスクとしてあります。

18.  労働と従業員の関係:労働環境に対する問題の多発、思いやりのない企業文化の認識、または望ましい企業目的の欠如により、運用コストの増加、顧客経験への悪影響、および社会的責任に関する問題が生じています。

19. 社会的不安:政情的不安、若者の抱く不信感、格差の拡大など、生産性低下や企業ブランド毀損につながる可能性のある要因。

20. 従業員のライフイベント:死亡、重病、障害などの致命的な個人的出来事により、雇用者負担の福利厚生対策における組織の格差が浮き彫りになり、それ故に風評被害が発生することがあります。

ガバナンスと財務

21. 健康、リスク保護、福利厚生費用の増加:保険会社のリスク許容度の低下、医療費の高騰、利用率の上昇、クレームの期間と重大性などの要因により支出が増加することは、従業員福利厚生保険料やその他のコストに影響を及ぼします。

22. 年金財政リスク:退職金制度に対する年金スポンサーの財務的コミットメント(バランスシート、現金および費用)および個人の退職金貯蓄の適切性に影響を与える投資、インフレおよび長寿のリスク。

23. 管理・受託者: 正確、公正、約束に従った制度運営や、従業員福利厚生プログラム・投資資金の慎重な管理ができず、エラーや未達成の債務が発生することはリスクです。

24. 法律とコンプライアンス:法規制や税制、労働法、人権法、雇用法などに対する福利厚生やその他の人事慣行・プログラムの不整合による罰金、罰則、訴訟の発生。

25. 福利厚生に関する意思決定と説明責任: 福利厚生制度の設計、予算設定、業者の選定・管理、コミュニケーション、管理に関する意思決定が、管理・専門知識の欠如により不適切になり、最適とはいえないコスト、負債、コミットメントが発生するリスクがあります。

企業はこれら25のリスクの一つひとつを考慮する必要がありますが、各企業によって優先順位は異なるでしょう。例えば、消費財では環境と社会が非常に重要であり、金融サービスではデジタル化の加速が重要です。また、製造業や自動車産業ではガバナンスと財務に重点を置き、テクノロジー、ライフサイエンス、小売・卸売業ではタレントプラクティスが注目されています。業種を問わず、パンデミックの結果、健康と安全がすべての人にとって最重要課題となっています。

まとめ

パンデミックにより、従業員の身体的、精神的、社会的、経済的な健康への注目が高まっています。企業がリスクマネジメントのアプローチを適用してこれらの脅威に対処し、安全で働きやすい職場環境を提供できるかは、事業運営、収益、評判、人材獲得の成功にとって非常に重要なポイントになることでしょう。

25リスクのフレームワークは、ビジネスが直面するマクロ要因について考え、リスクを探るのに最適な方法です。また、人事部門やリスク管理部門が、ビジネスリーダーや役員会で、これらのリスクに対して今行動しないことがどのような結果を招くかを明確に説明するのにも役立ちます。

福利厚生最適化コンサルティング

我々は、日本の独自性が高い福利厚生制度の最適化についての助言を行っております。従業員のウェルビーイング向上、働き方の多様化、ジョブ型雇用の本格的な導入等、福利厚生制度を見直す必要性は企業により様々です。グローバル展開している多国籍企業では、現地法人を設立した国での法律・慣習を取り入れた上で、グローバルスタンダードに沿った福利厚生制度の改革需要がある一方、歴史的な日本の企業では、長らく手を加えていなかった制度を現代の働き方を反映した制度への改革が求められています。上記で記載した25のリスクは、福利厚生の最適化により軽減可能な項目もあることから、福利厚生制度への着手は多くの企業の課題となっています。

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